「行きたい大学が決まらない」その前に立ち止まりたい、大学選びの本当の入り口
受験期になると、「大学の決め方」を特集した記事をよく目にします。
先日読んだ記事もそのひとつでした。「約800校の中からどう選ぶか」というタイトルに惹かれて読んでみましたが、読み終えて感じたのは、期待していた内容とは少し違う、ということでした。
もちろん、記事の考え方すべてを否定したいわけではありません。むしろ、大学選びに悩む高校生へのアドバイスとして理解できる部分もあります。ただ、「約800校の中から選ぶ」というタイトルを掲げるのであれば、もう少し違った入口があってもよかったのではないか。今回は、そんな違和感について考えてみたいと思います。
タイトルと中身のギャップ
記事が掲げる「4つの軸」は、
- キャンパス・施設・環境
- 「好きな人が行っている」
- 受けられそうな入試制度
- 創設者・理念・ルーツ
です。これらを大学に興味を持つ「きっかけ」として考えること自体は、決して悪くありません。「最初から完璧に絞り込む必要はない。まずはライトな理由でも、心が動くものを起点にしてみよう」というメッセージも、進路に迷っている高校生への声かけとしては理解できます。
問題は、その「軸」を説明するために挙げられている具体例です。具体例として挙げられる大学は、ほぼすべて私立大学で、しかも全国的に知名度の高い大学が中心です(具体的な大学名は本記事末尾に参考として記載します)。
もちろん、これらの大学を紹介すること自体に問題があるわけではありません。しかし、「約800校から選ぶ」というタイトルを見て読み始めた高校生が、実際に目にする具体例の多くが、すでに知っている大学だったとしたら、本当に「800校の中から選ぶ」ための視野が広がるでしょうか。
むしろ、「大学って、こういう有名大学の中から選ぶものなのかな」という無意識の刷り込みにつながる可能性もあるのではないでしょうか。
本当に800校を視野に入れるなら
日本には、国立・公立・私立をはじめ、実にさまざまな大学があります。地方大学、小規模大学、女子大学、理工系大学、医療系大学、芸術系大学、教育系大学、農学系大学、専門職大学など、大学の性格も、学びの内容も、立地も大きく異なります。
だからこそ、「約800校の中から選ぶ」というのであれば、まず高校生に「大学には、こんなにも多様な選択肢がある」ということを知らせるところから始めてもよかったのではないでしょうか。知らない大学は、そもそも候補に入りません。これは大学選びにおける、とても重要なポイントだと思います。
「受かりそうだから選ぶ」の危うさ
もうひとつ気になったのが、「受けられそうな入試制度」を選択の軸のひとつに据えている点です。記事では、英検の級や必要な評定平均、高卒認定での受験可否、実技試験の有無といった条件を、大学を選ぶ際の入口のひとつとして紹介しています。
もちろん、これは現実的な視点です。入試制度を知ることは大切ですし、自分がどのような方式なら受験できるのかを早めに知っておくことにも意味があります。しかし、大学選びの入口として強調しすぎると、
「自分が受かりそうだから、この大学を選ぶ」
という順序になってしまう危うさがあります。本来は、
「この大学で学びたい。だから、そこに合格するために努力する」
という順序もあるはずです。元記事自身も「入試形態だけで大学を選ぶのは本筋ではない」としています。だからこそ、それは「大学を選ぶ4つの軸」のひとつというより、「候補となる大学を見つけたあとで確認する現実的な条件」として位置づけたほうが、高校生にとっては分かりやすかったのではないでしょうか。
「何を学ぶか」は、もう少し前に出してもいい
ここは少し慎重に言いたいところです。元記事にも、「自分のやりたいことと、それぞれの大学が提供している学びや環境が一致している部分を探す」という考え方は示されており、カリキュラムや授業を「本丸」と表現している箇所もあります。したがって、「何を学ぶか」が完全に無視されているわけではありません。
ただし、4つの具体的なヒントを見ると、最初に出てくるのは「キャンパス・施設・環境」、続いて「好きな人が行っている」、そして「入試制度」、最後に「創設者・理念・ルーツ」です。つまり、「何を学ぶか」は大切だとしながらも、大学選びの中心的な軸としては前面に出てきません。私は、ここに少し違和感があります。大学は、何よりも「学ぶ場所」だからです。
大学選びの入口は、「何を学びたいか」からでもいい
高校生に大学選びを説明するなら、私は次のような順番を提案したいと思います。
- 自分は何を勉強したいのか
- それを学べる大学はどこにあるのか
- その大学では、具体的に何を学べるのか
- 教員、研究、カリキュラム、資格、卒業後の進路などは自分に合っているか
- 学費、立地、通学、入試方式などの現実的な条件はどうか
もちろん、全員がこの順番で考える必要はありません。キャンパスを見て「ここに行きたい」と思うこともあるでしょう。憧れの先輩が通っている大学を調べることもあるでしょう。好きな先生や芸能人、起業家などをきっかけに大学に興味を持つこともあるでしょう。そうした「入口」があっていい。問題は、その入口を「大学選びの出口」にしてしまわないことです。
「心理学を学びたい」なら、まず大学名を探さない
たとえば、「心理学を勉強したい」と思ったとします。そのとき、「有名な心理学部はどこだろう?」と考えるのではなく、「心理学を学べる大学には、どんな大学があるのだろう?」と考えてみる。
この違いは、意外と大きいと思います。「知っている大学」から探し始めれば、どうしても知名度の高い大学に目が向きます。一方、「学びたいこと」から探せば、これまで知らなかった大学が候補に入ってくる可能性があります。
そして、その中から、国立か公立か私立か、自宅から通えるか、学費はいくらか、学部・学科では具体的に何を学ぶのか、どのような研究ができるのか、どんな資格につながるのか、卒業後はどのような進路に進んでいるのか、自分の現在の学力からどの程度の距離があるのか、どのような入試方式があるのか——と、一つずつ条件を重ねていけばいい。そのほうが、「知っている大学だけで選ぶ」という落とし穴を避けられます。
この記事をどう読むべきか
誤解のないようにしておきたいのですが、私は元記事を「悪い記事」だと言いたいわけではありません。記事の執筆者は、総合型選抜・学校推薦型選抜を専門とする塾「洋々」です。この記事自体も、その著書の一部を再編集したものだと明記されています。
そのため、「大学受験全般について、全国約800校を公平に比較するためのガイド」というより、「進路がまだ決まっていない高校生が、まず大学に興味を持つきっかけを見つけるための入門記事」として読むのであれば、その狙いは十分理解できます。「最初から完璧に決めなくてもいい」というメッセージも、大切なものだと思います。
ただし、タイトルが約束している「約800校からの選び方」と、実際に提示されている具体例との間には、やはりギャップがあります。そして、そのギャップには、受験生の視野を知らず知らずのうちに狭めてしまう可能性があります。
この記事に出てきた大学から選ばなくていい
進路に迷っている高校生に、まず伝えたいのはこのことです。この記事に出てきた大学の中から選ばなくていい。
有名大学を知ることが悪いわけではありません。キャンパスに憧れることも、好きな人が通っていることも、大学選びの立派なきっかけです。けれども、それだけで大学を決める必要はありません。
大学選びの本当のスタート地点は、「自分は何を学びたいのか」を考えることでもいいのではないでしょうか。そこから、知らなかった大学にも目を向けてみる。国立、公立、私立という枠だけでなく、規模や地域、学問分野、教育方法、研究内容などにも目を向けてみる。そして最後に、学費、立地、入試方式、現在の学力との距離といった現実的な条件を重ねていく。
一見すると遠回りに見えます。しかし、「知っている大学から選ぶ」のではなく、「学びたいことから大学を探す」。この順番のほうが、約800校という多様な選択肢を本当に生かすことにつながるのではないでしょうか。
大学選びで大切なのは、「どこに行けそうか」だけではありません。「そこで何を学び、どんな4年間を過ごし、その先に何を目指すのか」。その問いから始めても、決して遅くはないと思います。
参考
「行きたい大学がなかなか決まらない」約800の大学の中から選ぶための4つの軸|リセマム
本文中で具体例として紹介されている大学:立教大学、青山学院大学、立命館アジア太平洋大学、慶應義塾大学、早稲田大学、日本大学、國學院大學、津田塾大学、同志社大学、立命館大学、拓殖大学、上智大学、学習院大学

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