行政書士を考える⑨ 大学と行政書士、二人の「翻訳者」が地域を変える

きっかけ

NHKの解説委員室で、「大学が地域を元気にする役割を担うようになってきている」という内容の記事が紹介されていました。少子化が進む中で、大学が「勉強するだけの場所」から「地域のために何ができるかを考える場所」へと変わりつつある、という話です。

これを読んで、私は「大学と行政書士事務所が力を合わせたら、面白いことができるのではないか」と考えました。今日はそのことを、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。

そもそも行政書士とは何をする人か

行政書士とは、市役所や県庁などに提出する書類を作る専門家です。会社を作るときの手続き、外国人の方が日本で働くための手続き、相続に関する書類など、私たちの生活のいろいろな場面で必要になる「お役所とのやり取り」を助けてくれる存在です。

そして大学は、みなさんもご存知の通り、学生が勉強し、先生方が研究をする場所です。

一見、この二つには接点がなさそうに見えます。でも実は、これから何十年か先を考えたときに、この二つは「よく似た問題」を抱えている、というのが私の考えです。

大学も行政書士も、「これまでのやり方」が通用しなくなってきている

大学の役割は、長い間「知識を教えること」でした。しかし今は、インターネットで検索すれば、たいていのことはすぐに調べられます。AIに質問すれば、丁寧に説明もしてくれます。「知識を持っていること」だけでは、大学の価値を示しにくい時代になってきました。

行政書士の仕事も、これまで「書類を作ること」が大きな役割の一つでした。しかし今は、書類作成もAIやオンラインの申請システムがどんどん手伝ってくれるようになっています。「書類を作れること」だけでは、行政書士の価値を示しにくい時代になりつつあります。

つまり大学も行政書士も、

「これまで自分たちが得意だったことが、機械にもできるようになってきた」

という、同じ悩みを抱えているのです。だからこそ私は、この二つが手を組むのは、単に「仲良くやりましょう」という話ではなく、お互いがこれからも必要とされ続けるための、大切な取り組みだと考えています。

行政書士が知っている「地域の小さな困りごと」

行政書士の事務所には、日々さまざまな相談が寄せられます。たとえば、

  • 「外国人の方を雇いたいけれど、何から始めればいいかわからない」という会社
  • 「相続人が誰かもはっきりしないまま、放っておかれている空き家」
  • 「お店を継ぐ人がいなくて困っている」という商店主

こういった相談は、まだニュースにもならない、地域の「小さな困りごと」です。行政書士は、そうした困りごとに、誰よりも早く出会う立場にいます。

一方で大学には、時間をかけてじっくり調べたり、考えたりする力があります。半年や一年という長い時間をかけて、一つのテーマを深く掘り下げることができるのは、大学ならではの強みです。

行政書士が日々の仕事の中で感じている「これは何とかしたいな」という違和感を、大学の学生や先生が時間をかけて調べ、形にしていく。これは、行政書士だけでもできませんし、大学だけでもできないことです。

  • 行政書士=現場の困りごとを知っている(けれど、忙しくて調べる時間がない)
  • 大学=時間をかけて調べる力がある(けれど、現場の困りごとを知らない)

この二つが組み合わさると、とても良い関係ができるのです。

気をつけたいのは、「一度きりのお付き合い」で終わらせないこと

ここで一つ、大事なことをお伝えします。

大学と地域の専門家が協力する取り組みは、これまでにもたくさんありました。しかし、よくある失敗パターンがあります。それは、大学が「地域と協力しました」という実績を作りたいがために、行政書士に一度だけ講演を頼んで、それで終わってしまう、というものです。これでは、行政書士側には何のメリットもなく、続くはずがありません。

本当に長く続く関係にするためには、行政書士側にもきちんとした「良いこと」がなければいけません。たとえば、

  • 学生たちが調べてくれることで、これまで気づかなかった新しい相談のきっかけが見つかる
  • 学生に自分の専門知識を説明することで、自分の仕事の意味を改めて整理できる
  • 「地域のために活動している事務所」として、周りから信頼されるようになる

こうした「良いこと」がなければ、行政書士は一度協力しても、二度目はやってくれないでしょう。長続きさせるための鍵は、大学側の熱意だけではなく、行政書士側にもしっかりとメリットがあるかどうかなのです。

結び――行政書士も大学も、「翻訳者」である

行政書士は、法律や制度という難しい言葉を、市民にわかる言葉へと「翻訳する」役割も担っています。そして大学が「地域を元気にする役割」を担うようになっていくのなら、大学もまた、地域の困りごとを学問や研究の言葉に翻訳する存在になっていくはずです。

この二人の「翻訳者」が並んで働くと、学生はその間に立ち会うことになります。制度の言葉と、生活者の言葉。研究の言葉と、現場の言葉。その両方に触れながら学ぶ経験は、教科書だけでは決して得られないものです。

そしてその経験を積んだ学生の中から、いつか自分自身が「地域の困りごとと制度をつなぐ翻訳者」になっていく人が出てくるかもしれません。行政書士という資格を取るかどうかは別として、これからの地域社会には、制度と現場の間を翻訳できる人が、もっと必要になっていくのだと思います。


参考情報

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