行政書士を考える⑤ 手続きは、目に見えない「二次災害」だった
2026年7月28日、熊本県を震源とする最大震度7の地震が発生しました。多くの方が住まいや大切な場所を失われ、今なお避難生活を送られている方も少なくありません。テレビやSNSで流れてくる映像を見るたびに、言葉を失います。被害に遭われた皆様に、心よりお見舞い申し上げます。
災害のニュースというと、倒壊した建物や、断たれたライフラインの映像がまず語られます。でも、実際に被災された方が本当につらいと感じる時期は、少し経ってからやってくるのではないかと思います。
それは、片付けが一段落した頃に押し寄せてくる「手続き」の山です。
罹災証明書、支援金の申請、保険会社とのやり取り、亡くなった家族の相続、お店や会社の再建計画……。心も体もすり減っている中で、こうした書類と向き合わなければならない。「何から手をつければいいのかわからない」「窓口に並んでも、自分の状況をどう説明していいかわからない」。過去の災害のたびに、そうした声を耳にしてきました。
これは、地震そのものとは別の、もうひとつの「二次災害」のようなものだと感じています。今日は、被災された方がこれから歩んでいくであろう時間の流れに沿って、その中で起きがちなことを書いておきたいと思います。専門家に相談するかどうかは別として、「こういう手続きがある」「こういう順番で困りごとがやってくる」ということを知っておくだけでも、いざというときの心の負担は少し軽くなるはずです。
発災直後〜数週間:まず何から手をつければいいかわからない時期
避難所生活や片付けに追われるこの時期、多くの方が最初に耳にするのが「罹災証明書」という言葉です。これは、その後のほぼすべての支援制度の入口になる書類で、住まいの被害程度を自治体が確認して発行するものです。
ただ、これがなかなか厄介です。調査の申請、必要書類の準備、判定への納得がいかない場合の再調査依頼など、平常時でも簡単ではない手続きが、被災直後の混乱の中で降りかかってきます。「まず罹災証明書」ということだけでも、頭の片隅に置いておくと、少し見通しが立てやすくなるかもしれません。
数週間〜数ヶ月:暮らしを立て直そうとする時期
罹災証明書が取得できると、次は住宅の修繕や再建、生活再建支援金の申請といった動きが始まります。この頃になると、疲労はむしろ蓄積していて、書類仕事に向き合う気力自体が湧きにくくなっている方も多いのではないかと思います。
災害でご家族を亡くされた場合は、悲しみのただ中で相続の手続きにも向き合わなければなりません。壊れた自動車の廃車手続きのような、地味だけれど避けて通れない事務作業も積み重なっていきます。
この時期に大切なのは、「全部を自分だけで抱え込まなくていい」と知っておくことだと思います。自治体の窓口だけでなく、弁護士会や行政書士会などが無料相談会を開いていることも多く、そうした場を頼ってもいい、ということです。
数ヶ月〜1年:お店や会社、地域を立て直す時期
生活の目処が少しずつ立ち始めると、今度は事業をされている方々にとって正念場の時期がやってきます。被災した店舗や工場の修繕費用を補助する制度、災害復旧のための特別融資、移転が必要な場合の許可手続きなど、関係する制度は多岐にわたります。
制度は用意されていても、それを知らなければ使えません。災害のたびに新しい制度ができたり、既存の制度の条件が変わったりするので、当事者だけで漏れなく把握するのは正直かなり大変です。「使える制度を見落としているかもしれない」という不安を抱えたまま日々の再建に追われている事業者の方は、少なくないと思います。
平時にできること
災害が起きてから振り返ると、「あのとき遺言を用意しておけばよかった」「事業を止めないための準備をしておけばよかった」という声を聞くことがあります。もちろん、平時に災害を想定して動くのは簡単ではありません。日々の生活や仕事だけで手一杯なのが普通です。
それでも、こうした「備え」の話が、他人事ではなく自分の生活の延長線上にあるものとして、少しでも心のどこかに残ればいいなと思っています。
おわりに
災害は、家や物だけでなく、日常のリズムや、これからどう生きていくかという見通しまで一度に奪っていきます。手続きの煩雑さは、その中でもとりわけ「見えにくい」負担です。倒れた家は写真に撮れますが、疲れ果てて役所の書類を前に立ち尽くす時間は、誰の目にも映りません。
もし今、そういう時間の中にいる方がこれを読んでいたら。焦らなくて大丈夫です。手続きは、今日明日にすべて終わらせなければいけないものではありません。ひとつずつ、自分のペースで進めていけば大丈夫です。
被災された皆様の暮らしが、一日でも早く落ち着きを取り戻すことを、心から願っています。

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