「アメリカがおかしい」と感じるあなたへ ― 何が起きているのか、日本人はどう考えるべきか
多くの識者が指摘しているのは、いま起きていることが「トランプ大統領個人の政策判断」だけでは説明しきれない、第二次世界大戦後80年以上にわたりアメリカが担ってきた、国際秩序の形成と維持における大きな役割が、現在のトランプ政権のもとで見直されているのではないか、という見方です。関税、軍事行動、国際機関への対応――バラバラに見えるニュースですが、一つの流れとして捉えられる可能性があります。この記事では、①何が起きているか、②論点として何が指摘されているか、③日本はどうすべきか、を順番に整理します。
1. 何が起きていると言われているのか
戦後、国連や国際法といった国際的な枠組みは各国の協調によって築かれてきましたが、アメリカはその中でも中心的な役割を担い、恩恵も大きく受けてきた国の一つです。多くの分析が指摘するのは、アメリカが、従来の国際的なルールや多国間協調を重視する姿勢から、自国の利益を優先して既存のルールを再解釈・再交渉する姿勢へと変化しているのではないか、という点です。日本の防衛研究所の分析でも、アメリカ・ファーストとは、自由貿易・国際協調・世界の警察官という戦後アメリカが掲げてきた役割を見直していくプロセスだと説明されています。
2. 具体的にどんな点が問題視されているのか ― 3つの論点
論点① 関税が交渉の圧力手段として使われている
現在、トランプ政権は同盟国であるカナダに対しても50%という高率の関税を発動しています。8月22日には約200億ドル相当のカナダ製品に実際に発動され、これを受けカナダのカーニー首相は「不本意ながら」としながらも、9月8日から米国の関税と同額(ドル・フォー・ドル)の報復関税を課すと発表しました。カーニー氏は両国経済の統合プロセスが終わりを迎えたとまで述べており、貿易摩擦は深刻化しています。米国側は、カナダによる米国製品への「差別的な扱い」への対抗措置だと説明しており、この点は米国側の論拠として押さえておく必要があります。ほかにも数十カ国にまとめて新しい関税がかけられるなど、交渉を有利に進めるための手段として関税が使われる場面が目立っています。
論点② 過去にアメリカ自身が批判してきた行動と重なって見える
2026年1月3日、米軍はベネズエラの首都カラカスで軍事作戦を実施し、ニコラス・マドゥロ大統領を拘束しました。これを受け、ブラジル、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイ、スペインの6カ国は共同声明を出し、この軍事行動を国連憲章に明記された武力行使および威嚇の禁止、国家の主権と領土保全の尊重という原則に反すると批判しました。
もちろん、ベネズエラへの軍事行動とロシアによるウクライナ侵攻では、規模や経緯、法的根拠をめぐる事情が大きく異なります。しかしアメリカはこれまで、ロシアのウクライナ侵攻や中国の台湾威嚇を「力による現状変更だ」と繰り返し批判してきた立場でもあります。「自国に都合のよい場合には武力行使を認めるのか」という基準の一貫性を問う声が複数の国から出ているのは、こうした背景があるためです。
論点③ 国際司法機関の幹部への制裁という新しい摩擦
2026年8月18日、米国政府はICCの赤根智子所長(日本人として初のICC所長)とICC上級裁判担当弁護士アブドゥライェ・セエ氏の2人を制裁対象に指定したと発表しました。制裁により米国内の資産が凍結され、米国の金融システムからも排除されます。ICCは19日、この措置について公平な司法機関の独立性に対する露骨な攻撃だと強く非難する声明を発表しました。
日本外務省も19日、日本はICCを一貫して支持してきている立場から今回の措置は大変残念だとの報道官談話を発出し、高市早苗首相も同日、首相官邸での取材に対し、これからも米国を含む関係国と意思疎通を継続しながら対応していく旨を述べました。一方で、自国民が制裁対象になったにもかかわらず対応が弱腰だとの批判も国内から上がっています。
国連のグテーレス事務総長も19日に「深刻な懸念」を表明したほか、EUやフランスなど欧州各国からも相次いで批判や連帯の表明が出ています。
さらに、アメリカとNATO加盟国との関係にも緊張の兆しが見られます。ブルームバーグ通信の報道によれば、トランプ政権はNATO加盟国に対し、米国の外交政策を「公に支持」してきたかどうかや、米軍による基地使用にどのような「制限」を設けているかを尋ねる質問状を送っていました。これは在欧米軍の態勢見直しを進める中で送付されたもので、NATO加盟国の間では、米国による防衛上の支援と引き換えに外交・政治面での歩調合わせを求めるものではないかとの懸念も出ています。
この3つに共通して指摘されていること
今回の一連の動きに共通していると指摘されているのは、アメリカが従来の「同盟国との協調」や「多国間の枠組み」を必ずしも優先せず、自国の利益や政策目標を前面に出す場面が増えていることです。カナダへの関税、ベネズエラへの軍事行動、ICC幹部への制裁はそれぞれ性質の異なる出来事ですが、いずれも従来の同盟関係・国際法・多国間主義との緊張関係の中で起きている点は共通しています。
3. 日本はどうすべきか ― 考えられる3つの方向性
日本はすでに「実利を重視した対応」を選んでいる
日本もこの状況の当事者です。2025年7月の日米合意で、日本の自動車・自動車部品への関税と相互関税はともに15%に抑えられました(鉄鋼・アルミは50%のまま)。日本は、関税そのものを撤回させることだけを目指すのではなく、対米投資の拡大や輸入拡大なども組み合わせて、関税負担を抑える現実的な交渉を選択しました。
この対応の評価は分かれるところですが、ICC制裁への反応でも見られたように、正面対立を避けつつ、実利と関係維持を図る姿勢は、現在の日本外交の一つの特徴といえそうです。その上で、今後検討に値する方向性として、以下の3点が考えられます。
- アメリカへの依存を一つの選択肢に分散させる
安全保障・経済ともに、日本のアメリカへの依存度は比較的高い水準にあります。ASEAN、インド、豪州、欧州など、他の関係国との連携を並行して強めることで、変化への耐性を高められるのではないか、という指摘があります。 - 国際ルールを支持する立場を維持する
アメリカが多国間の枠組みから距離を置く場面が増えるほど、それを支える役割を担う国の重要性が相対的に増すという見方もあります。ICC支持のように、自国の立場を明確に示し続けることには意味があると考えられます。 - 一方的な評価に偏らないこと
「アメリカについていくしかない」と考えるのも、「もう信用できない」と決めつけるのも、どちらも状況を単純化しすぎるリスクがあります。政策ごとに損得と妥当性を個別に見極める姿勢が求められるのではないでしょうか。
4. 私たち一人ひとりはどう考えればいいか
- 「アメリカ=常に正しい」という前提を一度見直してみる ― 反米になるという意味ではなく、その時々の行動を個別に評価する視点を持つことが有益かもしれません。
- 「遠い国の話」と切り離さない ― カナダへの関税、ベネズエラへの軍事行動、ICC幹部への制裁は、いずれも貿易・安全保障・国際法という形で日本の暮らしや外交にも影響しうる出来事です。
- 単純な結論を急がない ― 現在起きていることについては、専門家の間でも評価が分かれています。情報を多角的に見ながら、自分なりの判断軸を持つことが大切かもしれません。
公平を期すために付け加えると、アメリカ国内にはこうした政策を支持する意見も一定数存在します。これまでの多国間主義がアメリカの国益を十分に反映してこなかったという不満が背景にあるとされ、この観点から現在の政策を評価する声もあります。今起きていることを「特定の政権による例外的な動き」と見るか、「アメリカの相対的な影響力の変化に伴う、より構造的な現象」と見るかによって、今後の展望の描き方も変わってくるのではないかと思います。
参考資料
日本経済新聞「トランプ政権、10~12.5%の新関税を発表」(2026年7月24日)/時事ドットコム「米、50%追加関税を発動 カナダは報復、交渉決裂」(2026年8月22日)/ライブドアニュース(読売新聞発)「カナダ首相、米国への報復関税を表明」(2026年8月22日)/時事ドットコム「トランプ氏、ベネズエラ副大統領に警告」(2026年1月4日)/Yahoo!ニュース(MEGABRASIL)「ブラジルなど6か国、米国のベネズエラ攻撃を共同声明で非難」(2026年1月6日)/外務省「国際刑事裁判所(ICC)に対する米国の制裁(外務報道官談話)」(2026年8月19日)/時事ドットコム「ICC『司法の独立への攻撃』赤根所長制裁、米を非難」(2026年8月19日)/Yahoo!ニュース(朝日新聞)「ICC赤根所長への制裁、国連事務総長『深刻な懸念』」(2026年8月19日)/Yahoo!ニュース(共同通信)「NATOの忠誠度調査か 米政権、加盟国は反発」(2026年8月15日)

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