「パワハラ」と「忖度」は表裏一体だった-地方議会の知られざる力関係

2026年8月、宮城県議会で大きなニュースが報じられました。県議会の最大会派に所属するある議員が、複数の県職員に対してパワーハラスメントの疑いのある言動を繰り返していたとして、会派から「厳重注意」を受けたのです。

県が過去の記録を調べたところ、2023年度以降だけで12件のパワハラの恐れがあるやり取りが見つかり、すべて同じ議員が関係していました。「ふざけるな」「最悪の人間だ」といった発言があり、夜眠れなくなった職員もいたといいます。一方で当の議員は「行政の遅れを指摘し改善を促すのは議員の本来の役割であり、パワハラではない」と反論。逆に「執行部こそパワハラだ」と処分に強く反発しています。

「また地方議員のスキャンダルか」と思われるかもしれませんが、実はこれ、宮城県に限った話ではありません。福岡県議会では、パワハラだけでなく「質問の横流し」や職員による「異常な配慮・忖度」という、もう一段深刻な構造問題まで表面化しています。この記事では、実態・問題点・背景・今後の対策という流れで、できるだけわかりやすく整理してみます。

1. 実態:何が起きているのか

(1) 福岡県議会で発覚した「質問の横流し」問題

2026年7月、福岡県議会をめぐって衝撃的な調査結果が明らかになりました。県議会での質疑にあたり、各会派が県に事前通知していた「質問案」を、県職員が無断で最大会派(自民党)側に渡していた、いわゆる「横流し」行為が複数確認されたのです。

調査は課長級以上の幹部職員を対象に匿名アンケート形式で実施され、「上からの指示だった」「前任者から引き継いだ」という回答が寄せられました。中には、本来議員が自分で作るべき質問案そのものを、県職員が代わりに作成していたケースもあったといいます。いつから始まったかは判明していませんが、長年の「慣例」として続いてきたとみられています。

これは単なる事務ミスではありません。他会派が用意した質問の中身を、事前に最大会派に流すという行為は、議会でのやり取りを台本通りの「出来レース」にしてしまい、行政をチェックするという議会の機能そのものを空洞化させるものです。

(2) 政治資金パーティー券の組織的購入問題

同時期に発覚したのが、福岡県の課長級以上の職員でつくる親睦組織「部課長会」が、給与から天引きした会費を使って、議長・副議長の政治資金パーティー券を購入していた問題です。

県の中間報告によれば、この慣行は10年以上前から続いており、地方公務員法や政治資金規正法に抵触するおそれがあると指摘されました。過去に在籍した職員75人への聞き取り調査では、実際にパーティー券を購入して参加した23人のうち18人が「これまでの慣例として参加した」と回答。中には「行かないことで議会との関係がうまくいかなくなる」「部全体のことも考慮した忖度や配慮があった」という声もありました。参加しなかった職員の約6割は、会費がパーティー券代に充てられていたことすら知らなかったといいます。

県の中間報告は、この慣行の背景に「議会への忖度や配慮」があったと明確に認定し、「県政への信頼を損なう可能性のある行動だった」としています。

(3) 議員への「過剰な奉仕」の実態

さらに報道では、県議会事務局の職員が、勤務時間外に議員の親善野球大会やゴルフ・サッカーといったレクリエーションに同行し、球拾いや写真撮影、後片付けまで担っている実態も伝えられています。同行にかかる交通費・宿泊費は、議員が報酬から天引きして積み立てた部費でまかなわれていたとされ、これも「勤務時間外のボランティア」という建前のもとで長年続いてきた慣行です。こうした一連の問題を受け、知事は「信頼関係という名の下でずぶずぶであってはいけない。緊張関係を保つ必要がある」と、これまでの関係性そのものに問題があったことを認めています。

(4) 宮城県のパワハラ問題との共通点

冒頭で紹介した宮城県のケースは、議員から職員への直接的な暴言・威圧という「攻撃型」の問題でした。一方、福岡県で表面化したのは、質問の横流しやパーティー券購入、過剰な同行奉仕といった、職員側が自主的に(あるいは組織の空気として)議員に過剰に配慮してしまう「忖度型」の問題です。方向性は逆に見えますが、根っこにあるのは同じ「議員と職員の間の歪んだ力関係」です。

(5) 全国調査でも裏付けられる実態

総務省が2025年4月に公表した全国調査(388自治体、約1万1500人が回答)によると、過去3年間にパワハラを受けた(と感じた)職員は全体の15.7%。ハラスメント行為者の内訳では「上司(幹部以外)」が最多(64.2%)ですが、「議員」からという回答も1.7%(30人)存在し、上司・同僚とは別の独立したハラスメント発生源として統計上把握されています。

内閣府男女共同参画局の別調査では、地方議員自身が議員活動・選挙活動の中でハラスメントを受けた経験があると答えた割合は全体で42.3%(男性32.5%、女性57.6%)にのぼります。議会という場そのものが、緊張とハラスメントが生じやすい環境になっている可能性がうかがえます。

2. 何が問題なのか

  • 「厳しい追及」と「人格攻撃」の境目があいまい
    行政の不備を指摘し、改善を促すのは議員の正当な仕事です。しかし人格を否定するような発言は、業務上の指摘というより攻撃です。この境界線が現場で共有されていないことが、問題を長引かせています。
  • 「攻撃」だけでなく「過剰な服従」も問題になる
    福岡のケースが示すのは、ハラスメントのような直接的な攻撃だけが問題ではないということです。職員側が委縮し、先回りして議員の顔色をうかがい、本来公平であるべき議会運営や職務を歪めてしまう「忖度」も、同じ根から生まれる別の症状です。質問の横流しは、その最も深刻な形といえます。
  • 議会と行政の距離が近すぎることの弊害
    議会は本来、行政を監視しチェックする役割を持ちます。しかし質問案の事前共有や、職員による議員行事への奉仕的な同行が慣例化すると、監視する側とされる側の緊張関係が失われ、なれ合いが常態化します。
  • 相談・是正の仕組みが弱い
    総務省の調査でも、相談窓口が「内容や状況に応じて適切に対応してくれている」と実感している職員は3割程度にとどまります。議員が関わる案件は特に、内部の対応に頼りがちで、外部のチェックが働きにくい構造があります。
  • 慣行の起点が誰にもわからない
    パーティー券購入も、質問の横流しも、野球大会への同行も、共通しているのは「いつから始まったか誰にも分からない」という点です。一度始まった「配慮」は、前任者から後任者へと引き継がれ、疑問を持たれないまま延々と続いてしまいます。

3. なぜこうしたことが起きるのか(背景・要因)

  • 議会と首長部局が「対等」であるという制度設計
    日本の地方自治は、知事(首長)と議会がそれぞれ住民から直接選ばれる「二元代表制」を採っています。議会には行政を監視する強い権限があり、この力関係が行き過ぎると、威圧的な言動や、逆に職員側の過剰な迎合という形で表れます。
  • 過去の政治対立が生んだ「主従関係」の歴史(福岡のケース)
    報道による関係者証言では、福岡県のこうした異常な関係のルーツは、1983年に革新系の知事が誕生した際の政治対立にさかのぼるとされています。当時、県政で野党の立場に転じた最大会派が知事側と激しく対立し、その後の力関係の変遷の中で、行政側が議会側に配慮する構図が徐々に定着していったとみられています。長年かけて形成された関係は、それだけ解消も簡単ではないということです。
  • 「選挙で選ばれた」という意識
    住民から直接選ばれているという自負が、「自分の要求には応えて当然」という態度につながりやすく、それが職員への一方的な叱責、あるいは過剰な配慮という形で現れることがあります。
  • 議員には労働法制上のパワハラ防止義務が直接かからない
    会社の上司には、法律(労働施策総合推進法)でパワハラ防止の措置義務が課されています。しかし議員は職員の「雇用主」ではないため、この法律が直接は適用されません。そのため議員によるハラスメントへの対応は、自治体ごとの条例整備に委ねられてきました。
  • 人事評価・予算への影響を恐れる心理
    議員は職員の直接の上司ではありませんが、議会対応がこじれることは組織全体の評価や担当業務の停滞に直結しかねません。この心理的なプレッシャーが、過剰な配慮や忖度を生む土壌になります。
  • 「厳しい指摘=議員の役割」という論理での正当化
    加害側が「行政監視のための正当な指摘だ」と主張することで、被害の実態が「指導の一環」として扱われ、問題が矮小化されやすいという構造もあります。

4. これからどうすればいいのか(対策)

  • ハラスメント防止条例・ガイドラインの整備
    「優越的な関係を背景とした言動で、政治活動上必要かつ相当な範囲を超えるもの」というように定義を明文化し、議員・職員双方があらかじめ共有しておく。福岡県はすでにハラスメント根絶を目的とした条例を制定しており、一つのモデルになります。
  • 議会と行政の「適切な距離感」の再構築
    他の自治体では、知事の就任を機に、職員が議会運営を過度にお膳立てする従来の慣行を見直す取り組みが行われた例もあります。質問案の作成代行や、勤務時間外の議員行事への同行奉仕など、「慣例」として続いてきた業務を洗い出し、本当に必要かを一つひとつ検証することが必要です。
  • 第三者を交えた相談・審査の仕組み
    会派内部の処分だけに頼らず、弁護士や社会保険労務士、臨床心理士といった外部の専門家を交えて事実関係を確認する体制をつくることで、「言った・言わない」の水掛け論を防ぎやすくなります。福岡県は問題発覚を受けて、職員が匿名でも相談できる窓口を新たに設置しました。
  • パーティー券購入など金銭的な癒着の遮断
    福岡県では、部課長会費からの政治資金パーティー参加費支出を原則禁止する通達を全庁に出したほか、議会側も職員に対してパーティー等の案内を出さない方針を示しています。金銭が絡む「配慮」の芽を、制度として断つことが重要です。
  • やり取りの記録化
    電話や個室での対応に頼らず、「複数の職員で対応する」「やり取りを記録に残す」ことを原則にすることで、密室性を減らし、後から検証できるようにする。
  • 「正当な指摘」と「ハラスメント」の線引きの研修
    具体的な事例(良い指摘の仕方・悪い指摘の仕方)を議員・職員双方向けの研修で共有し、行政監視という本来の機能を萎縮させずに、行き過ぎた言動だけを是正できるようにする。

おわりに

今回の宮城県のニュースは、決して一つの県だけの特殊な出来事ではありません。福岡県議会では、パワハラ疑惑にとどまらず、質問の横流しやパーティー券の組織的購入、議員行事への職員の奉仕的な同行といった、より根深い「忖度」の構造まで明るみに出ました。

一見すると、宮城の「攻撃型」のパワハラと、福岡の「忖度型」の過剰な配慮は正反対に見えます。しかし、どちらも根っこにあるのは、議員に与えられた強い監視権限と、職員側の立場の弱さという、地方自治の制度設計そのものに根差した力関係のゆがみです。福岡のケースでは、この関係が数十年単位の政治的な経緯を経て形成されてきたことも分かっています。

だからこそ、個々の議員や職員の資質だけの問題として片づけるのではなく、どの県・どの議会でも起こりうる構造的な課題として、条例整備、相談体制の強化、そして議会と行政の「適切な緊張関係」の再構築を進めていくことが求められています。


出典:朝日新聞「宮城県議「最悪の人間」と県職員にパワハラか 県議は会派処分に反発」(2026年8月20日)
https://digital.asahi.com/articles/ASV8M3DKGV8MUNHB006M.html

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