「永住20万円」の本当の理由――在留手数料値上げを読み解く
※本記事は2026年8月28日時点の確定情報に基づいています。2026年8月25日に政令が閣議決定され、10月1日以降に受け付けられる申請から新料金が適用されます。
2026年8月25日、政府は外国人の在留手続きにかかる手数料を大幅に引き上げる政令を閣議決定しました。10月1日以降に受け付けられる申請から、永住許可の手数料は現在の1万円から一気に20万円へ。在留資格の更新・変更の手数料も、これまでの一律6,000円から、許可される在留期間に応じて最大7万5,000円まで引き上げられます。
「なぜこんなに急に、こんなに大きく上がるのか」「自分や家族、あるいは職場の外国人スタッフにどんな影響があるのか」――今回はこの制度改定を、市民目線で深掘りして整理します。
何が変わるのか
在留資格の変更・更新の新料金は、以下のように在留期間に応じた段階制になります。
| 許可される在留期間 | 窓口申請 | オンライン申請 |
|---|---|---|
| 3か月以下 | 10,000円 | 10,000円(割引なし) |
| 3か月超〜6か月以下 | 18,000円 | 15,000円 |
| 6か月超〜1年未満 | 25,000円 | 21,000円 |
| 1年 | 33,000円 | 27,000円 |
| 1年超〜3年未満 | 48,000円 | 42,000円 |
| 3年以上〜5年未満 | 64,000円 | 56,000円 |
| 5年以上 | 75,000円 | 65,000円 |
※オンライン割引は「一律1万円引き」ではなく、区分によって3,000円〜1万円の差が設けられています。3か月以下の区分と永住許可は割引の対象外です。
※オンライン申請には、上記の金額とは別に決済手数料(区分により330円または550円)がかかります。
※減額措置の対象者がオンライン申請を利用した場合、減額措置は適用されません。減額を受ける場合は窓口で申請する必要があります。
- 永住許可:1万円 → 20万円(20倍、オンライン割引の対象外)
- 適用開始:2026年10月1日以降に受け付けられる申請から
実は「約1年半で2段階」の値上げだった
今回の改定でひとつ見逃されがちなのが、これが単発の値上げではないという点です。在留資格の変更・更新の手数料は、2025年4月1日にすでに従来の4,000円(窓口)から6,000円へ、永住許可も8,000円から1万円へと一度値上げされたばかりでした(入管庁の公式発表でも確認できます)。
つまり、1981年の制度改正以降、変更・更新は4,000円、永住許可は8,000円という水準が長く据え置かれていたところ、2025年4月にまず一段階の値上げがあり、そこからわずか1年半ほどでさらに大幅な引き上げが行われることになります。難民支援協会もこの点を「約1年半の間に」2度の値上げと表現しています。
なぜ値上げするのか——政府の説明とその内訳
入管庁が示している理由は、大きく2つに分けられます。
① 「受益者負担」の考え方、その具体的な内訳
永住許可の20万円という金額は、どんぶり勘定ではなく、一応の積算根拠が示されています。
- 審査にかかる実費:約2万円(人件費・システムコストなど)
- 「応益的要素」:約18万円
この「応益的要素」というのが、永住資格を得ることで本人が得る長期的な利益に対する対価、という位置づけです。具体的には、永住資格を得ることで、在留期間の更新が原則不要になり、活動内容について在留資格による制限を受けなくなるといった利益が想定されています。つまり、単純な審査コストだけで20万円が設定されているのではなく、その大部分を「資格を得ることによる利益」に対応する「応益的要素」として設定していることになります。実際、変更・更新(5年)の75,000円についても、入管庁の公表資料では「審査に要する実費1万円+応益的要素6万円+オンライン申請の利用拡大差5千円」という内訳が示されており、同様の考え方が全体を貫いています。この「応益的要素」の考え方については、専門家や支援団体から疑問の声も出ています。
② 在留外国人の急増への対応コスト
在留外国人数の増加に伴い、審査にかかる人件費やシステム整備、行政のデジタル化などのコストが増加しており、その財源確保という側面もあります。
増収分については、入管行政のDX化や難民の保護・支援などに活用する考えが政府から示されています。また、国会では日本語教育や相談体制の拡充など、外国人施策への活用を求める附帯決議も採択されています。ただし、手数料収入そのものは一般財源であり、使途が法的に限定されているわけではない、という点は留意が必要です。
批判:説明責任は果たされているか
一方でこの説明には強い批判もあります。大手経済紙の社説は、金額の根拠や使い道の説明が十分でなく、なぜ実費対応にとどまらず10〜30倍もの上限引き上げが必要なのか、政府の説明責任が果たされていないと指摘しています。日本弁護士連合会も会長声明の中で、法律上の上限額が在留期間更新・資格変更で「10倍(10万円)」、永住許可で「30倍(30万円)」に引き上げられる点を「激変」と表現し、慎重な審議を求めていました。長く据え置かれてきた手数料が短期間で跳ね上がるという急激さそのものが、多くの人に「取れるところから取る」という印象を与えている面は否めません。
誰に、どんな影響があるのか
◆ 外国人本人・家族
最も打撃が大きいのは、更新頻度の高い人たちです。特定技能1号のように在留期間が4か月・6か月・1年単位で区切られている人は、更新のたびに数万円単位の負担が発生します。収入のない配偶者や子どもを扶養する家族滞在ビザの世帯も、家計への影響が深刻だと指摘されています。東京新聞の取材では、当事者から「月給より高い」「生活できなくなる」といった声が上がっていると報じられました。永住申請を考えている人にとっては、1万円→20万円という差がもっとも大きなインパクトです。
◆ 難民認定申請者:制度のすき間で負担が増す構造
ここは特に深掘りしておきたいポイントです。難民支援協会によれば、2025年の難民認定の平均処理期間は一次審査だけで22.5か月、審査請求まで含めると35.9か月にのぼります。その間、難民申請者は2〜6か月という短い在留許可を繰り返し更新しなければなりません。
難民支援協会の試算では、この「細切れ更新」の仕組みのせいで、難民申請者は結果的に、1年の在留資格を得た人よりも年間で1万5千円多く手数料を支払うことになります。制度の建前は「在留期間に応じた応益負担」ですが、審査の長期化という本人にはどうしようもない事情によって、結果として在留期間が短くなりやすい人ほど、年間ベースでは割高な負担を強いられるという構造が生まれているわけです。
◆ 雇用する企業
特定技能人材などを多く抱える企業では、更新のたびに発生する費用が積み重なり、年間コストとして無視できない規模になります。手数料を会社が負担するのか、本人負担なのか、規定を明確にしていない企業では、今後トラブルの火種になりかねません。
救済措置はあるのか——「減額」であって「免除」ではない
入管庁は8月25日、値上げの政令決定と同時に、減額対象者に関する指針も公表しました。要件は「生活保護法の要保護者に準じる程度の困窮」かつ「人道上の配慮が必要」であること。該当すれば、在留資格変更・更新は1万円、永住許可は2万円まで減額されます。
人道上の配慮の対象として明示されたのは、難民認定者・難民申請者、人身取引の被害者、日本人の配偶者、日本人や特別永住者の子を一人で育てる外国人など、12類型です。
ただしここには重要な限界があります。
- 免除(無料)となる対象は限定的:「外交」「公用」の在留資格を持つ人のほか、台湾日本関係協会の職員等、駐日パレスチナ総代表部の職員等に関わる一部の「特定活動」に限られます。一般の生活困窮者が免除になる制度ではなく、あくまで「減額」までしか認められません。
- 難民申請者は「保護費」の受給が減額の要件になっています。しかし保護費を実際に受給できている難民申請者は一部にとどまるため、大半は結局この減額対象からも外れてしまうとみられています。難民支援団体からは「救済対象が限定的すぎる」との懸念が示されています。
つまり、制度上は「配慮している」体裁が整っている一方で、実際にその配慮が届く人はかなり限定的だという二重構造になっている点は、押さえておくべきポイントです。
私たちは何をすべきか
在留外国人・家族の方へ
- 自分の在留期限を確認し、9月30日までに申請が受け付けられるかどうかを確認する(旧料金の適用は「受付日」が基準。更新申請は満了日のおおむね3か月前からしか出せないため、在留期限によっては9月中の申請自体ができない場合があります)
- 永住申請を検討中なら、要件を満たしているか確認したうえで前倒しを検討する
- 減額対象(困窮+人道配慮の12類型)に該当しそうか、早めに専門家や支援団体に相談する。特に難民申請者は「保護費受給」の有無を確認する。減額を受ける場合はオンラインではなく窓口での申請が必要な点にも注意
- 勤務先に費用負担の制度があるか確認する
企業の人事・総務担当者へ
- 在籍する外国人社員全員の在留期限を洗い出し、旧料金が適用できる人を把握する
- 手数料の負担区分(会社負担/本人負担/折半)を明文化する
- 来年度予算に新料金を反映させる
- オンライン申請への切り替えで割引を活用する(割引額は区分により3,000円〜1万円と異なり、3か月以下・永住は対象外。別途決済手数料もかかる点に注意)
- 特定技能1号人材が多い場合、更新コストの積み上がりを踏まえ、特定技能2号(更新上限なし・家族帯同可・支援義務なし)へのステップアップ支援を中長期の人材戦略として検討する
まとめ
今回の値上げは、単なる「手数料改定」という言葉の印象以上に、制度設計そのものに踏み込んだ変化です。「実費」ではなく「利益への対価」という考え方を前面に出した積算、約1年半で2段階という短期間での値上げ、そして「配慮はしているが実際には届きにくい」減額制度――これらを知った上で、当事者も企業も、まずは自分(自社)の在留期限とスケジュールを正確に把握することが、感情論より先にやるべき最初の一歩だと言えそうです。
参考記事一覧
- 令和8年10月1日付け在留許可手数料の額の改定等について(出入国在留管理庁・公式)
- [社説]在留手数料の引き上げは根拠を明確に(日本経済新聞)
- 手数料の値上げ等に関する出入国管理及び難民認定法改正案の慎重審議を求める会長声明(日本弁護士連合会)
- 外国人の在留手数料、永住許可は一挙20倍の20万円で「確定」(東京新聞デジタル)
- 在留許可手数料の大幅引き上げに関する政令案に対するコメント(認定NPO法人 難民支援協会)
- 入管庁、在留許可手数料の値上げ巡り指針 生活保護レベルの難民認定者ら減額対象者を明示(産経新聞/Yahoo!ニュース)
(注:一次情報である出入国在留管理庁の公式ページを中心に、新聞社・日弁連・難民支援協会など継続性の高い情報源に絞っています。決済手数料の金額(330円・550円)についても、出入国在留管理庁の公式ページを根拠にしています。)

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