行政書士を考える⑥ 制度は変わる。備える人だけが、変化を追い風にできる

2026年、中小事業者の皆様にとって看過し得ない制度変更が、期せずして同時に進行しています。ひとつは食品にかかる消費税を8%から1%へ引き下げるという案、いまひとつは毎年秋に実施される最低賃金の改定です。いずれも「まだ正式には決まっていないから」「毎年のことだから」と後回しにされがちですが、備えの有無によって事業への影響の度合いは大きく変わってきます。本稿では、この二つの変化の内容と、事業者の皆様が今から思案しておくべきことについて、あらためて整理します。

食品消費税「1%」案とは何か

政府は2027年4月をもって、食品にかかる消費税率を現行の8%から1%へと引き下げる制度の導入を目指しています。2026年6月には制度案の中間とりまとめが公にされ、その後、法改正へ向けた準備を進めるよう指示が下されましたが、本稿執筆時点(2026年8月)においては、いまだ法案の成立には至っていません。

もともとは食品の消費税を0%とする案が検討されていましたが、レジシステムや会計ソフトの多くが税率0%を想定した設計になっていないこと、インボイス上で0%が非課税として扱われてしまう懸念があること、システム改修に10か月から1年程度を要する可能性が示唆されていることなどから、あえて1%を残す形で調整が進められています。

免税事業者ほど、影響を受けやすいという事情

消費税の納税義務を負わない免税事業者にとって、これまで売上に上乗せしてきた8%分は、実質的な収益の一助として機能してきた面があります。税率が1%へと下がれば、この上乗せ分が縮小し、利益を圧迫する懸念があります。一方で仕入れにかかる消費税はコストとして残るため、業種によっては利益率の低下を避けがたいところもあるでしょう。

とりわけ影響が大きいと見られているのが、食品を扱う小売業、飲食店、そして農家です。飲食店については、店内飲食が「サービスの提供」とみなされ10%のまま据え置かれる一方、テイクアウトやスーパーの惣菜は1%に軽減されるため、消費者の外食離れを招くのではという懸念があります。農家についても、種苗や肥料、燃料の仕入れには10%の消費税がかかったままとなるため、売上側の税率が下がることで、かえって利益が圧縮されるという逆転現象が起こりえます。

最低賃金改定——「秋に決まる」ではもはや遅い

もう一つの大きな変化が、毎年見直される最低賃金です。最低賃金は都道府県ごとに改定額と発効日が定められる仕組みで、例年秋ごろから地域別最低賃金の適用が順次開始されます。審議会の答申が公表されてから発効日までの猶予は限られており、9月や10月になってから対応に着手したのでは、給与計算やシフト、人件費の見直しが間に合わないおそれがあります。

パート・アルバイトを多く抱える小売業や飲食業はもとより、介護・福祉、製造業、サービス業においても、時給の引き上げはそのまま人件費の増加に直結します。しかも、その影響は時給者にとどまりません。月給者・日給者であっても、所定労働時間で割り戻した時間単価が最低賃金を下回っていないか、全従業員について確認する必要があります。

さらに見落とされがちなのが、既存社員との賃金の均衡です。最低賃金付近の従業員のみを引き上げますと、勤続年数の長い社員との賃金差が縮まり、不満や離職の遠因となることもあります。人件費の増加は単独のコスト増としてではなく、原材料費や光熱費の上昇と併せて、経営全体の課題として捉える視座が求められます。

今から思案しておきたいこと

これら二つの制度変更に共通して言えるのは、「決定してから動く」のではなく「決定前から備える」という姿勢こそが、事業を守る鍵になるという点です。具体的には、次のような準備が考えられるでしょう。

  • 自社への影響額を試算する:食品の売上比率や仕入額、雇用人数や月間労働時間をもとに、税率変更・賃上げのそれぞれが利益や資金繰りにどの程度の影響を及ぼすか、あらかじめ見積もっておく。
  • 価格設定・料金体系を見直す:単純な値上げのみならず、セット価格やオプション料金の新設、送料や深夜料金など曖昧であった費用の明確化など、収益構造そのものを見直す視点を持つ。
  • 課税事業者への転換を検討する:免税事業者のままでいることが、必ずしも有利とは限りません。仕入税額控除を受けられる分、事業内容によっては課税事業者への転換が有利となる場合もあります。
  • 業務効率化・デジタル化を進める:予約管理や在庫管理、会計、勤怠、請求書発行などの業務をデジタル化し、限られた人員・時間で利益を確保できる体制を整える。
  • 取引先への価格転嫁を準備する:人件費増や原材料費上昇の根拠を数字で整理し、見積書や契約更新の機会に合わせて、早めに交渉の材料を用意しておく。
  • 各種支援策の情報を集める:最低賃金引き上げに対応する助成金制度、また食品減税に関する飲食店・農家向け支援策の動向を注視する。ただし助成金・補助金は入金までに数か月を要することも多く、受給を前提とした資金計画は慎むべきでしょう。

専門家とともに歩むために

こうした制度変更への対応は、税務、労務、契約や許認可の手続きなど、多岐にわたる領域が絡み合うものです。すべてを一人で抱え込む必要はなく、税理士や社会保険労務士、行政書士といった各分野の専門家に相談しながら進めることで、対応の負担は大きく軽減されます。

行政書士も、そうした専門家の一人として、契約書の整備や各種の許認可手続き、補助金の申請書類作成など、実務面から事業者の皆様を支える役割を担っています。どこに相談すればよいか迷われた際には、まず身近な専門家に声をかけてみることが、備えへの第一歩となるでしょう。

結びに

食品の消費税1%案も、最低賃金改定も、いまだ細部が定まったわけではありませんが、いずれも「発表されてから慌てて対応する」には間に合わない制度変更です。自社への影響を早めに見積もり、価格戦略や業務体制、資金計画を見直しておくことこそ、変化への耐性を高める最善の策と申せましょう。

一人で抱え込まず、身近な専門家の力を借りながら、着実に備えを進めていただければと思います。


出典:
「食品の消費税1%案とは?免税事業者への影響と今から準備しておきたいことを解説」創業手帳
https://sogyotecho.jp/shouhizei-genzei/

「最低賃金改定前に中小企業がやるべきこと|人件費増への備え方を解説」創業手帳
https://sogyotecho.jp/saiteichinginkaitei-taiou/

※内容は2026年8月時点の情報にもとづいています。制度の詳細は今後変わる可能性がありますので、実際の対応にあたっては最新の情報や専門家への確認をおすすめします。

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