保育士を育てる大学・短大が減っている――子どもが減る社会で、保育はどうなるのか
「子どもの数が減っているのだから、保育士も少なくてよいのではないか」。そう考える人は少なくないと思います。ところが、いま起きていることは、そんな単純な話ではありません。
2026年4月、保育士を養成する大学や短大、専門学校などの「指定保育士養成施設」は全国で650校となり、前年より17校減りました。そのうち68校は学生募集を停止しています。入学定員の合計も、2023年と比べて約8割まで減っています。一方で、2026年7月の保育士の有効求人倍率は2.80倍で、全職種平均の1.15倍を大きく上回っています。 報道はこちら。
※2026年の養成施設数は650校。前年より17校減少し、68校が学生募集を停止しています。 出典: 読売新聞報道
しかし、ここで「だから養成校を減らしてはいけない」「もっと保育士を育てればよい」と結論づけるだけでは、問題の本質を見失います。私たちが考えなければならないのは、なぜ子どもが減っているのに保育士の不足が起こるのか、そして、そもそも現在の日本では、どれほどの家庭が保育を必要としているのかということです。
子どもが減っても、保育の需要まで同じように減るわけではありません
日本では出生数が減り、子どもの人口そのものが減少しています。しかし、その一方で、保育所や認定こども園などを利用する子どもの割合は長期的に上昇してきました。こども家庭庁の資料を見ると、保育所等の利用率は2013年の35.0%から2024年には54.1%へ上昇しています。1、2歳児では33.9%から59.3%へと、さらに大きく伸びています。
これは、「親が保育園に預けるようになった」という一言だけでは説明できません。共働き世帯の増加、女性の就業率の上昇、核家族化、長時間労働や不規則な勤務など、家庭だけで子どもを育てることが難しい社会になってきたことが背景にあります。つまり、子どもの数が減っている一方で、社会全体として「保育を必要とする家庭の割合」が高まってきたのです。
ここは、とても大切なところです。保育士不足を考えるとき、「保育士の仕事が大変だから人が集まらない」という供給側の問題だけを見るのではなく、「なぜこれほど多くの家庭が保育を必要としているのか」という需要側の変化も見なければなりません。
だからといって、保育園を利用する親を責める話ではありません。むしろ問題は、子育てを家庭だけに任せるのか、それとも社会全体で支えるのかという、私たちの社会の選択にあります。
かつては祖父母や親族が近くにいて、母親が家庭で子育てを担うことを前提とした社会がありました。しかし、現在は家族の形も働き方も大きく変わっています。その変化に合わせて、社会が保育を支える仕組みを大きくしてきた結果、子どもの数が減っても保育需要が簡単には減らないという状況が生まれています。
「待機児童がいる」のに「定員割れ」も起きている
さらに難しいのは、日本全国が一様に「保育士不足」「保育園不足」になっているわけではないことです。
2026年4月時点では、全国の保育所等の利用定員は302万人、利用児童は265万人、定員充足率は87.7%でした。一方、待機児童は2,435人で、前年より181人増えています。待機児童がいる市区町村は189ありますが、待機児童のいない自治体も1,552あります。
この事実は、これからの保育政策を考えるうえで非常に重要です。単純に全国一律で保育士を増やせばよいわけではありません。都市部では1、2歳児を中心に保育需要が集中し、保育士が不足することがあります。その一方で、子どもの減少が進む地方では、保育施設そのものの定員が余り、施設の維持が難しくなることもあります。
したがって、「保育士不足」という言葉の中には、実は複数の問題が重なっています。保育士を目指す若者が減っていること、保育士として働き続けることが難しいこと、地域によって保育需要が違うこと、そして、子どもの減少によって施設の経営そのものが難しくなる地域があることです。
養成校が減っていることを、単純に「学校が悪い」と考えてはいけません
では、保育士を育てる大学や短大が減っていることをどう考えればよいのでしょうか。
私は、単純に「養成校を減らしてはいけない」と考えるべきではないと思います。18歳人口が減り、大学進学の選択肢も変化している中で、これまでと同じ教育内容、同じ募集方法、同じ学校運営を続けていれば、学生が集まりにくくなるのは当然のことだからです。
問題は、学校の数そのものよりも、地域に必要な保育・子育て人材を、これから誰が、どのように育てるのかということです。
保育士養成校には、単に国家資格を取得させる役割だけではなく、地域の子どもと家庭を支える専門人材を育てる役割があります。保育士だけでなく、幼稚園教諭、子育て支援、障害児支援、発達支援、児童福祉、家庭支援など、子どもを取り巻く仕事は広がっています。
そのため、これからの養成校は「保育士になるための学校」というだけではなく、「子どもと家庭を支える専門職を育てる学校」へと役割を広げることが必要ではないでしょうか。
もちろん、保育士養成の質を下げてよいという意味ではありません。むしろ逆です。子どもの発達、保育、心理、福祉、家庭支援などを幅広く学び、そのうえで保育士資格を取得できる教育にしていくことが、これからの時代にはますます重要になります。
学校だけに学生募集を任せる時代も終わらせる必要があります
もう一つ大切なのは、保育士を目指す人を18歳の高校生だけに求めないことです。
もちろん高校生から保育士を目指す人を増やすことは重要ですが、それだけでは人口減少社会に対応できません。社会人になってから子どもの仕事に関心を持った人、子育てを経験して新たな仕事として保育を学びたい人、福祉や教育など別の分野を学んだ人などにも、保育を学び直せる道をもっと用意する必要があります。
そのためには、大学や短大が自分たちだけで学生を集めるのではなく、自治体、地域の保育所、認定こども園、幼稚園、福祉施設、高校などと協力し、「地域全体で保育人材を育てる」という発想が必要になります。
例えば、高校生の段階から保育の仕事を知る機会をつくり、大学や短大で実際の保育現場を経験し、卒業後には地域の保育所や認定こども園などで働ける道をつくる。その間の奨学金や授業料支援、実習先の確保、就職支援までを一つの仕組みとして考えるのです。
そうすれば、養成校は単独で学生を奪い合う存在ではなく、地域の保育人材を育てる拠点になります。
そして、保育士の「働き続けられる環境」を変えなければなりません
ただし、どれだけ学生を集めても、卒業した人が保育士として働き続けられなければ意味がありません。
保育士不足の背景には、給与や休暇、勤務時間だけでなく、仕事の責任の重さ、事故への不安、保護者対応など、現場で感じる負担があります。厚生労働省の資料でも、保育士資格を持ちながら保育士として働くことを希望しない人が少なくなく、その理由として給与や休暇、勤務時間、責任の重さ、保護者との関係などが挙げられています。
したがって、「保育士になりたい若者を増やそう」という政策だけでは不十分です。せっかく育てた保育士が、数年で現場を離れてしまうのであれば、養成校を増やしても人材不足は解消しません。
記録や事務作業を減らし、ICTを活用し、保育士でなければできない仕事に専門職が集中できる環境をつくることも必要です。また、保育士の待遇を改善し、「大切な仕事だから大切に処遇する」という社会的な意思を明確にすることも欠かせません。
私たちが考えるべきなのは、「保育士を何人増やすか」だけではありません
ここまで考えてくると、今回の養成校減少を「少子化だから仕方がない」と片づけることも、「保育士不足になるから学校を減らしてはいけない」と単純化することも、どちらも適切ではないことが分かります。
本当に考えるべきなのは、地域ごとに、これからどれだけの子どもが生まれ、どれだけの家庭が保育を必要とし、そのためにどれだけの保育士が必要になるのかを見通すことです。そのうえで、保育施設の数、定員、保育士の人数、養成校の定員を一体として考えていく必要があります。
子どもが減っている地域では、すべての施設を今のまま維持することが難しくなるかもしれません。しかし、その一方で、施設を単純に閉じるのではなく、複数の施設が連携したり、保育だけでなく一時預かりや子育て相談、発達支援などを担ったりすることで、地域の子育て支援拠点として役割を変えていくこともできます。
反対に、保育需要が高い地域では、必要な年齢層や時間帯に合わせて保育士を確保し、施設の受け入れ体制を整える必要があります。
子どもの数
保育需要
保育士数
養成能力
再設計する
つまり、これから求められるのは「全国どこでも同じ数の保育士、同じ数の保育園」という考え方ではありません。地域ごとの子どもと家庭の状況に合わせて、保育の需要と供給、人材育成を組み直すことです。
まとめ――保育士不足を「保育士だけの問題」にしない
保育士を育てる大学や短大が減っていることは、確かに心配な問題です。しかし、その問題だけを取り出して考えても解決策は見えてきません。
子どもの数が減る一方で、共働き世帯の増加や家族構成の変化などによって保育を必要とする家庭の割合は高まってきました。そのため、子どもの減少と保育需要の減少は必ずしも同じではありません。さらに現在は、待機児童が残る地域がある一方で、定員割れに悩む地域もあります。全国一律の「保育士不足」ではなく、地域ごとに異なる需要と供給のずれが生じているのです。
だからこそ、これから必要なのは、養成校を無理に残すことでも、逆に市場原理だけで減らしてしまうことでもありません。地域の保育需要を見極め、必要な地域には人材を育てる仕組みを残し、大学や短大には社会人の学び直しや子ども・家庭支援まで含めた新しい役割を持ってもらう。そして、そこで育った人が長く働けるように、保育士の仕事そのものを持続可能なものに変えていくことです。
そして何より、保育を「親が家庭でやるもの」と「保育士が仕事としてやるもの」に単純に分けるのではなく、子どもを育てることを社会全体でどう支えるのかを考える必要があります。
私たちが考えるべき問い
子どもが減っていく社会で、
それでも子どもを安心して育てられる地域を
どうつくるのか。
今回の養成校減少が私たちに突きつけているのは、単に「保育士が足りなくなるかもしれない」という問題ではありません。子どもが減っていく社会で、それでも子どもを安心して育てられる地域をどうつくるのか。その問いを、保育士、養成校、保育施設、自治体だけに任せるのではなく、私たち一人ひとりが考える時期に来ているのだと思います。

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