求人倍率が低いのに、なぜ人手不足なのか?――ハローワークの数字だけでは見えない日本の現実

「人手不足が深刻だと聞くのに、ハローワークの有効求人倍率はそれほど高くない。いったい、どういうことなのだろうか」

飲食業や介護、建設業、運送業など、さまざまな業界で人手不足が続いています。企業からも「人が採れない」「募集しても応募がない」という声が聞こえてきます。ところが、雇用情勢を示す代表的な指標であるハローワークの有効求人倍率を見ると、必ずしも求人が増えているわけではありません。

この一見矛盾しているような現象には、日本の働き方や仕事の探し方、企業の採用活動そのものが変化しているという背景があります。

リクルートワークス研究所の古屋星斗氏によるコラム「なぜ、ハローワークの『有効求人倍率』は低いのか」をもとに、その理由を考えてみます。

有効求人倍率だけでは見えない雇用の実態

有効求人倍率とは、仕事を探している人に対して、企業からどれくらいの求人が出されているかを示す指標です。一般的には、倍率が高いほど仕事を見つけやすく、企業にとっては人材を採用しにくい状況とされています。

ところが、近年はこの数字だけでは実際の労働市場を十分に説明できなくなっています。

古屋氏が紹介する2026年8月のデータでは、ハローワークの正社員求人が前年同月比で0.5%減少した一方、民間求人メディアの集計では16.3%増加しています。企業の人手不足感も依然として強い状態です。

正社員求人数の前年同月比(2026年8月)

ハローワーク −0.5%
民間求人メディア +16.3%

出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」、民間求人メディア「HRog」。前年同月比。ハローワークはパートタイムを除く原数値。

ハローワークでは求人が減っているのに、民間では増えている。企業は人手不足を訴えている。この違いには、大きく三つの理由があります。

仕事を探す場所が変わった

一つ目は、仕事を探す方法が多様化したことです。

かつては、仕事を探すといえばハローワークに行くことが一般的でした。しかし現在は、民間の求人サイトや転職エージェント、企業独自の採用ページなど、さまざまな方法で仕事を探せます。

実際に、転職者のうちハローワークを経由して就職した人の割合は、2012年の26.5%から2024年には18.2%に低下しています。

ハローワーク経由の転職者割合

26.5%
2012年
18.2%
2024年

12年間で8.3ポイント低下

地域による違いも顕著です。2024年のハローワーク経由の転職者割合は、岩手県では65.3%に達する一方、東京都では8.9%、福岡県では10.1%にとどまっています。地方では今もハローワークが重要な役割を担っていますが、都市部では民間サービスの存在感が大きくなっています。

つまり、都市部で求人が増えても、その多くが民間サービスに掲載されていれば、ハローワークの統計には十分に反映されません。求人を出す場所そのものが変わっているのです。

ハローワークを利用する人の高齢化

二つ目は、ハローワークを利用する人の年齢構成が変化していることです。

特に目立つのが、65歳以上の女性の増加です。新規求職申込件数は2012年度から2025年度にかけて172.8%増加し、女性求職者に占める割合も3.3%から13.2%へと上昇しています。

女性求職者に占める65歳以上の割合

2012年度3.3%
2025年度13.2%

新規求職申込件数は172.8%増加

背景には、年齢を重ねても働き続けたいという人が増えていることに加え、自宅近くで働きたい、短時間勤務を希望したい、健康状態や家族の介護に合わせて仕事を選びたいといった事情があります。

こうした人たちにとって、窓口で相談しながら仕事を探せるハローワークは重要な存在です。一方、民間の転職サービスは現役世代や都市部の求職者が比較的多く利用しています。

そのため、ハローワークの統計は、以前よりも地方や高齢者の労働市場を強く反映するようになっているのです。

人手不足が深刻すぎて、企業が求人を出せない

三つ目は、人手不足が深刻になるほど、企業が求人を出せなくなる場合があるということです。

一般的には、人手不足になれば企業は求人を増やすと考えます。しかし、何度募集しても応募がない、採用しても定着しない、必要な技能を持つ人材が見つからないという状況が続けば、企業は採用活動そのものを縮小せざるを得ません。

人手不足が求人減少につながる構図

人手不足が深刻化する
↓
募集しても応募が集まらない
↓
採用活動を縮小・断念する
↓
求人件数が増えない
それでも人手不足は解消していない

人材を確保できないために、事業の拡大を諦めたり、営業時間を短縮したり、サービスを縮小したりする企業もあります。賃金を引き上げて採用したくても、経営上の負担から難しい場合もあるでしょう。

こうなると、人手不足が深刻であるにもかかわらず、求人件数は増えません。求人が少ないのは人手不足が解消したからではなく、採用を諦める企業があるからかもしれないのです。

働き手そのものが不足する時代には、求人の増減だけで雇用情勢を判断することは難しくなっています。

まとめ――数字の向こう側にある地域社会の変化

今回の記事が示しているのは、ハローワークの有効求人倍率だけで日本全体の雇用情勢を判断することには限界がある、ということです。

仕事を探す場所が民間サービスへと広がり、ハローワークを利用する人の年齢構成も変わりました。さらに、人手不足が深刻すぎて、求人を出すことさえ難しくなっている企業もあります。こうした変化を捉えるには、民間求人サイトの動向や企業の人手不足感など、複数の指標を組み合わせて見る必要があります。

そして、人手不足は企業だけの問題ではありません。飲食店や介護施設、交通機関、医療・福祉の現場など、地域の暮らしを支える仕事の担い手が不足すれば、営業時間の短縮やサービスの縮小など、私たちの日常生活にも影響が及びます。人手不足は、地域社会の持続可能性にも関わる問題なのです。

有効求人倍率が低いからといって、人手不足が解消したとは限りません。大切なのは、数字の高低だけに目を向けるのではなく、その背景で何が起きているのかを読み解くことです。

統計の数字だけでは見えない働く人の変化と企業の現実。その両方に目を向けることが、これからの雇用と地域社会を考える出発点になるのではないでしょうか。

参考・出典

古屋星斗「なぜ、ハローワークの『有効求人倍率』は低いのか」
リクルートワークス研究所(2026年11月5日)

元記事を読む(リクルートワークス研究所)

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