誰が決めているのか⑧ 福岡県議会バンコク送別宴283万円、一次資料だけで見えてきたこと
2024年1月、福岡県議会訪問団がタイ・バンコクで開いた送別宴の動画・写真が「センキョタイムズWEB」によって公開されました。県議が舞台に上がって踊る様子などが写った動画・写真が公開され、SNS上でも話題となりました。
はじめに一点確認しておきます。本記事のタイトルにある「283万円」は、送別宴そのものの費用ではありません。これは、バンコク単独区間の議員旅費・職員旅費・委託費を合わせた公表経費の総額であり、内訳は本文で詳しく見ていきます。
こうした話題は感情的な反応が先行しがちです。そこで本記事では、報道の評価や印象論はいったん脇に置き、福岡県議会・福岡県が自ら公表している一次資料(公式PDF・公式ページ)だけを読み込んで、何が事実として確認でき、何がまだ分かっていないのかを整理しました。
対象は、2024年1月24日〜28日に行われた「福岡県議会・バンコク都議会友好訪問団」です。
一次資料で確認できたこと
1. 送別宴は公式訪問団の行程に組み込まれていた
福岡県議会の公式報告書には、1月26日の行程として「バンコク都主催送別宴」が明記されています。したがって、少なくとも県議会が公表した訪問団の公式行程に含まれていたことは確認できます。
2. 参加者は「公式訪問団9人」+「タイ友好議員連盟15人」
報告書には、香原勝司議長を団長とし、藏内勇夫氏、松尾統章氏、仁戸田元氣氏、椛島徳博氏、および事務局職員4人の計9人の公式訪問団に加え、福岡県タイ友好議員連盟から15人の議員が参加したと記載されています。
3. 公表されているバンコク単独区間の経費は283万円
内訳は以下の通りです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 議員旅費 | 452,000円 |
| 職員旅費 | 349,000円 |
| 委託費 | 2,029,000円 |
| 総経費 | 2,830,000円 |
ただし、この283万円は「24人全員の旅行費」ではありません。バンコク単独の経費資料では、訪問団として「会派代表者1名(議長ほか代表者はハノイ訪問団から継続参加のため別途掲載)」と随行職員2名が対象とされています。議長ほか、ハノイから継続参加した議員・職員の経費は、別の経費資料に掲載されています。
なお、この経費資料には訪問の目的として、「福岡県議会とバンコク都議会の友好親善を一層発展させるとともに、タイ福岡県人会との意見交換を行う」「県産品の輸出における現状の調査」の2点が明記されています。
4. 委託費が「当初契約の約3.3倍」になっていた
委託費202万9千円の内容は、現地車両・通訳・添乗員・現地ガイド・Wi-Fiレンタル・各種手配とされています。そしてこの資料には、「※当初契約 613千円」と明記されています。つまり、約61万3千円だった当初契約が、最終的な委託費では約202万9千円になっていたことは、県議会自身の公表資料だけで確認できます。ただし、なぜ増額されたのか、その理由や個別の内訳はこの資料には書かれていません。
5. ホテル代は含まれていない
この283万円の経費資料では、バンコクの宿泊費は「先方負担」とされており、県側の経費には計上されていません。
6. 「ハノイ+バンコク637万7千円」は別枠であり、単純合算は適切ではない
県議会は別に「福岡県・ハノイ市友好提携15周年記念訪問団及び福岡県議会バンコク都議会訪問団」として、総経費637万7千円の資料も公表しています。これはハノイから継続してバンコクを訪れた別のメンバー(議長ほか議員4名・随行職員ほか2名)の経費です。この637万7千円にはハノイ訪問に係る経費も含まれているため、283万円と単純に合算して「バンコクに920万円が使われた」とすることはできません。
7. 報告書でこの送別宴について確認できるのは、議長の挨拶文と写真
報告書でこの送別宴について確認できるのは、香原議長の挨拶文と、その挨拶に関する写真です。その場で他に何が行われていたかについての記述は、報告書からは確認できません。
8. 県は2026年9月17日、海外活動に関する第三者委員会を設置した
福岡県庁の公式サイト「福岡県庁は変わります~改革の地図~」には、「第三者委員会による調査・認定・評価(R8.9.17~) ※結論が出るまで知事・副知事の海外活動は実施しない」と明記されています。日本弁護士連合会のガイドラインに基づく第三者委員会で、委員は5人の弁護士です。
9. 監査委員は、契約方式について具体的な注意を行っている
福岡県議会自身が公開している「海外活動における契約手続きに関するQ&A」には、監査委員からの注意として次の文言がそのまま引用されています。
海外出張に係る委託料について、過去の実績や見積り等を考慮して作成された予算上の積算があるにもかかわらず、予算額を大きく下回る額で予定価格を定め、随意契約を行った後に業者と増額変更契約を行っており、適切な予定価格の設定がされていなかった。
これを受け、県議会は今後、原則として指名委員会において5者以上を指名する指名競争入札に切り替える方針であることも、同じQ&Aに明記されています。
一次資料では分からないこと
- タイ友好議員連盟15人の氏名 — この訪問団報告書には「15名参加」とあるのみで、15人の氏名は記載されていません。少なくとも今回確認した県議会の訪問団報告書・経費資料からは、15人の氏名を特定できません。
- その15人の旅費・宿泊費・現地交通費を誰が負担したか — 公費なのか、自己負担なのか、政務活動費なのか、議員連盟の費用なのか、資料からは判別できません。
- 委託費が約3.3倍になった具体的な理由・内訳 — 公式Q&Aは「仕様が直前まで確定しないため、当初契約では必ず必要な業務のみを契約し、後から変更契約を結ぶ」という一般的な運用方法を説明していますが、このバンコク案件について、613千円から2,029千円への増額分の具体的な内訳、および変更契約書や変更後の仕様書・見積書など契約変更の根拠資料は公表されていません。
- 委託先の旅行会社名
- 送別宴そのものの飲食費・会場費等について、県議会側から公費支出があったのか
同様の契約変更は、他の海外視察でも確認されている
福岡県議会は、海外活動における委託契約について、随意契約後に増額変更契約を行っていたことに関し、監査委員から注意を受けたと公表しています。前述のQ&Aで引用されている監査委員の指摘は、このバンコク案件だけを対象としたものではなく、海外活動における委託契約の手続きについて行われたものです。こうした契約手続きについて監査委員から問題点が指摘され、県議会はその後、契約方法を見直しています。契約の「方式」に問題があったことと、実際の支出が不正だったことは、別の話として扱う必要があります。
参考までに、バンコク単独とハノイ+バンコクの委託費についても、いずれも当初契約から最終契約にかけての増額が確認できます。
| バンコク単独 | ハノイ+バンコク | |
|---|---|---|
| 当初委託契約 | 61.3万円 | 98.1万円 |
| 最終委託費 | 202.9万円 | 197.8万円 |
※「ハノイ+バンコク」は両訪問を含む委託契約の数字であり、バンコク部分だけの増額額を示すものではありません。
いずれも県議会自身の公表資料に記載された数字であり、随意契約後に増額変更契約が結ばれるという同様のパターンが、バンコク単独の案件に限らず見られることが分かります。
第三者委員会は、この案件を調べるのか
福岡県は2026年9月17日、2つの第三者委員会を設置しました。ひとつは「部課長会」をめぐる政治資金パーティー券購入問題、もうひとつは知事・副知事・県議会の高額な海外活動についての調査です。委員はいずれも福岡県弁護士会所属の弁護士で、各5人が任命されています。
福岡県が公表している「福岡県海外活動に関する第三者調査実施要綱」では、第1条で、令和3年4月1日から令和8年5月31日までに実施された、知事または副知事を団長とした訪問団による海外活動、および県議会における海外活動を調査対象としています。したがって、2024年1月のバンコク訪問は対象期間に含まれます。ただし、このバンコク案件について具体的に調査が進んでいるという個別の進捗は、現時点で確認できていません。
なお、この第三者調査の調査事項(第2条)には、本件事案に支出した費用の妥当性、本件事案の目的と費用との関連性、および知事または副知事を団長とした訪問団による海外活動の実施の必要性が明記されています。また、委員は必要があると認めるときは、関係者に対し、事実関係・意見の聴取、資料等の提出、合議体への出席を求めることができるとされています(第5条)。
つまり、「第三者委員会があるから、いずれ真相が分かるはずだ」と受け身で待つことと、「この案件について具体的な検証が進んでいる」ことは、まだイコールではありません。
まとめ:まだ足りていない情報は何か
一次資料だけを積み上げていくと、「不正があった」と断定できる証拠は今のところありません。一方で、支出の妥当性を判断するために必要な資料がすべて公開されているわけでもありません。
具体的に、次の6点が公開されれば、この訪問にかかった公費の妥当性を、県民自身が検証できるようになります。
- タイ友好議員連盟から参加した15人は誰なのか。また、それぞれの参加費用を誰が負担したのか
- 委託費202万9千円は、最終的に誰に、何の業務の対価として支払われたのか
- 当初契約61万3千円から、なぜ約3.3倍に増額されたのか
- 送別宴について、県議会側の公費負担はあったのか
- この訪問の目的として掲げられていた「バンコク都議会との友好親善」「タイ福岡県人会との意見交換」「県産品輸出の現状調査」について、具体的に何が行われ、どのような成果・合意・今後の取り組みにつながったのか
- 委託先の業者はどこか
これらの疑問の一部については、情報公開請求によって関係資料の開示を求めることができます。
なお福岡県議会自身も、報告書の公開がこれまで不十分だったと認め、内容を充実させる方針を示しています。また、県議会が公開しているQ&Aでは、議員の海外派遣について「今後は、誰が、どのような目的で参加したのかについても、より分かりやすい形で公表していくことが重要」だとしています。これは、今回の一次資料からは確認できなかった情報と、まさに重なる部分です。
今回の資料を追って分かったのは、「不正があった」ということではありません。現時点の一次資料だけでは、そこまでの事実は確認できません。
一方で、誰が参加し、誰が費用を負担し、委託費がなぜ当初の61万3千円から202万9千円になり、その変更を誰がどのような根拠で決めたのか――県民が公費の妥当性を検証するために必要な情報が、まだ十分に公開されていないことも分かりました。
「誰が決めているのか」というこのシリーズで繰り返し見えてくるのは、個々の支出の是非以前に、意思決定の過程がどこまで県民に開かれているか、という一点です。
バンコクの一件も、その問いを考えるための一つの事例です。
参考にした一次資料
- 福岡県議会「『R6.1月 福岡県議会バンコク都議会訪問団』に係る経費の内訳」
- 福岡県議会「『令和6年1月 福岡県・ハノイ市友好提携15周年記念訪問団 及び 福岡県議会バンコク都議会訪問団』に係る経費の内訳」
- 福岡県議会「福岡県議会・バンコク都議会友好訪問団報告書」(令和6年1月)
- 福岡県議会「海外との交流活動 活動報告書一覧」
- 福岡県議会「福岡県議会の海外活動に関するQ&A」
- 福岡県議会「福岡県議会の海外活動における契約手続きに関するQ&A」(監査委員の指摘を含む)
- 福岡県庁「福岡県庁は変わります~改革の地図~」
- 福岡県「福岡県海外活動に関する第三者調査実施要綱」(第三者委員会の設置について、令和8年9月17日)
この記事のきっかけとなった報道
- センキョタイムズWEB「【スクープ】『ドン・クラウチオーネが世界に挑戦します!』(松尾統章氏)――バンコク送別宴の動画4本を公開」

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