「力かルールか」2026年国連総会、7人の演説から見えた世界の分かれ道
世界を動かすのは、力なのか、ルールなのか。
2026年の国連総会では、米国、中国、フランス、日本、イスラエル、ウクライナ、ロシアなど、国際政治の主要プレーヤーが相次いで演説しました。
演説を並べてみると、単に「戦争をどう終わらせるか」という問題だけではありません。
国際社会は、一国の力で動くのか、それとも多国間のルールで動くのか。
そして、国連は今後も世界の共通ルールを支えることができるのか。
今回は、ドナルド・トランプ米大統領、高市早苗首相、中国の韓正国家副主席、エマニュエル・マクロン仏大統領、ベンヤミン・ネタニヤフ・イスラエル首相、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、そしてロシアのセルゲイ・ラブロフ外相という7人の演説を軸に、世界の対立軸を整理してみます。
7人の演説、何が違ったのか
| 人物 | 主なテーマ |
|---|---|
| トランプ | 米国の国力+交渉 |
| 高市 | 国際法+実効性・国連改革 |
| 韓正 | 主権+多国間主義+多極化 |
| マクロン | 国際法+多国間協調 |
| ネタニヤフ | 自衛+人質+イスラエルの安全 |
| ゼレンスキー | 侵略への抵抗+国際支援 |
| ラブロフ | 多極化+ロシアの安全保障主張 |
同じ国連総会の壇上に立ちながら、世界をどう見るか、国連をどう位置づけるか、戦争をどう終わらせるかについて、それぞれ異なる考え方が浮かび上がります。
「力」と「ルール」――トランプとマクロンの対照
比較しやすいのが、米国のトランプ大統領とフランスのマクロン大統領です。
トランプ氏の演説では、米国の軍事力や経済力、そして交渉力が強く意識されています。国際問題についても、米国が持つ影響力を背景に、相手国との交渉によって問題を解決していくという姿勢が目立ちました。
一方で、トランプ氏は国連について、官僚主義や非効率を批判し、組織の効率化を求めています。また、AIの安全性をめぐる懸念を「hoax(でっち上げ)」と批判するなど、国際的な規制よりも技術革新や自由を重視する姿勢も示しました。
これに対してマクロン氏は、国際法、国連憲章、多国間協調を繰り返し強調しました。国家間の力関係だけではなく、共通のルールを維持することが国際秩序の基礎だという考え方です。
つまり、両者の大きな違いは、
「国際法や多国間の仕組みを通して問題を解決するのか」
という点にあります。
日本・高市首相――「ルールだけでは足りない」
高市首相の国連総会演説で特徴的だったのは、国際法と国連改革を同時に語ったことです。
高市首相は、法の支配や自由で開かれた国際秩序の重要性を強調しました。ロシアのウクライナ侵攻を「国連憲章の原則に反する」と明確に批判すると同時に、ロシア自身が安保理常任理事国として拒否権を持っていることを挙げ、安保理が十分に機能していないとの問題意識を示しました。
ここには、国際法を守るべきだという主張だけではなく、
という問題意識があります。
そのため、高市首相は安全保障理事会の改革にも言及し、常任理事国・非常任理事国双方の拡大を含む国連改革の必要性を訴えました。
また、核兵器のない世界、NPT体制、核軍縮・不拡散、AIの安全・安心・信頼性などにも触れ、日本が国際的なルール形成に関与する姿勢を示しています。
中国・韓正――「多極化する世界」
中国の韓正国家副主席の演説では、主権尊重、多国間主義、そして多極化する国際秩序という考え方が目立ちました。
中国は、特定の国が国際秩序を一方的に決めるのではなく、複数の国や地域が参加する多極的な世界を重視しています。
これは、米国を中心とした戦後の国際秩序に対する中国側の問題意識とも重なります。
一方で、中国も国連憲章や多国間主義を強調しているため、「ルールを重視するか、しないか」という単純な二分法では整理できません。
むしろ争点になっているのは、
という問題です。
ロシア・ラブロフ――「西側中心」から「多極化」へ
ラブロフ外相の国連関連日程・映像でも、多極化した国際秩序という考え方が大きなテーマになりました。
ロシアは、米国や欧州を中心とした既存の国際秩序に対して強い批判を展開し、国際社会は一つの勢力が支配するのではなく、複数の中心によって構成されるべきだという立場を示しています。
また、ウクライナ問題を含む安全保障について、ロシア自身の安全保障上の立場を強く主張しています。
つまり、中国とロシアには「多極化」という共通する言葉があります。ただし、両国がそれぞれどのような国際秩序を想定しているのか、また個別の紛争についてどのような立場を取っているのかは分けて考える必要があります。
ウクライナ戦争――「終わらせ方」が違う
2026年の国連総会で、最も大きな争点の一つとなったのがウクライナ戦争です。
7人はいずれも、何らかの形で戦争や国際安全保障について言及しました。しかし、戦争終結に至るまでの道筋については、大きく異なる考え方が示されています。
ゼレンスキー大統領は、ロシアによる侵略への抵抗と国際社会の支援を強く訴えています。ウクライナの主権と領土を守ることを前提として、国際社会がロシアによる武力行使を許さないことの重要性を主張しています。
一方、ロシア側は、ウクライナ問題をロシアの安全保障や欧米との対立という文脈で説明しています。
米国は、交渉や圧力を通じて戦争を終わらせるという方向を強く意識しています。
そのため、同じ「戦争終結」を語りながらも、
「安全保障上の条件を調整し、交渉によって終わらせること」
のどこに重点を置くかで、考え方が分かれています。
ガザ――「自衛」と「国家建設」
ガザ情勢についても、各国の立場には大きな違いがあります。
ネタニヤフ首相は、自衛と人質解放を軸に、ハマスの武装解除・ガザ非武装化を戦争終結の条件として提示しています。
これに対して、マクロン大統領や韓正国家副主席は、パレスチナ国家の樹立や2国家解決を重視しています。
この点で両者には共通する部分があります。
それは、単純に「戦闘を止める」だけではなく、戦後のガザをどのような政治・安全保障体制にするのかという問題まで含めて考えていることです。
しかし、その前提となる安全保障の考え方や、パレスチナ国家の位置づけについては、大きな違いがあります。
AI――新しい国際ルールをどう作るか
今回の国連総会では、戦争や安全保障だけでなく、AIも重要なテーマになりました。
AIは軍事利用、偽情報、雇用、教育、経済成長など、ほぼすべての分野に影響を及ぼし始めています。
そのため、AIをどのように規制するのかという問題は、今後の国際秩序を考える上でも重要になります。
高市首相はAIの安全・安心・信頼性を重視し、日本が進めてきた広島AIプロセスにも言及しました。一方、トランプ氏はAIに対する過度な規制に慎重な姿勢を示しています。
ここでも、
「技術革新を優先し、規制を抑えるのか」
という考え方の違いが見えてきます。
「多極化」は本当に世界を安定させるのか
今回の演説を比較すると、「多極化」という言葉が何度も登場します。
中国やロシアは、米国を中心とした一極的な国際秩序から、複数の大国・地域が影響力を持つ多極的な世界への移行を強調しています。
しかし、多極化すれば自動的に世界が安定するとは限りません。複数の大国がそれぞれ異なる安全保障上の利益を主張すれば、むしろ対立が複雑になる可能性もあります。
逆に、一つの大国が強い影響力を持つ世界にも、別の問題があります。
結局のところ重要なのは、
「中心が複数になったとき、各国がどのようなルールで行動するのか」
という点なのかもしれません。
7人の演説から見える「世界の分かれ道」
今回の国連総会の一般討論演説を並べると、いくつかの大きな対立軸が浮かび上がります。
- 米国とロシアは、国際秩序をめぐって激しく対立する一方、いずれも自国の安全保障を強く論じている。
- 中国とロシアは「多極化」を重視している。
- フランスや日本は、国際法や多国間協調の重要性を強調している。
- 米国とイスラエルは、自国の安全保障・自衛を強く前面に出している点に共通点がある。
- ウクライナは、主権と領土保全を軸に国際社会の支援を求めている。
そして、そのすべての根底にあるのが「国連はこれからも世界の共通ルールを支えられるのか」という問いです。
国連総会議長のハリルル・ラーマン氏も、今回の総会の開会演説で、国連が「存在しているか」だけでなく、「機能しているか」が問われているという問題意識を示しました。
これは、今回の国連総会全体を読み解く上でも重要な視点です。
国連は「世界政府」ではない
そもそも国連は、世界政府ではありません。
国連には、各国政府を直接命令によって動かす権限があるわけではありません。そのため、国連憲章や国際法が存在していても、大国同士の利害が衝突すれば、安保理が機能しにくくなる場面があります。
それでも国連が重要なのは、各国が同じテーブルにつき、同じルールや原則について議論できる場だからです。
今回の7人の演説は、その国連が抱える矛盾をそのまま映し出しているようにも見えます。
まとめ――世界はどこへ向かうのか
2026年の国連総会では、「戦争をどう終わらせるか」「国際秩序を誰が支えるのか」「国連はどう改革されるべきか」「AI時代のルールをどう作るのか」という問題が、互いにつながった形で現れました。
米国は国力と交渉力を、中国とロシアは多極化を、日本とフランスは国際法と多国間協調を、イスラエルは自衛と安全保障を、ウクライナは主権と国際的支援を、それぞれ強く訴えています。
どの立場が正しいのかを単純に決めることはできません。しかし、7人の演説を比較することで、現在の国際社会がどのような価値観や利害の衝突によって動いているのかは見えてきます。
世界は今、「一つの国が主導する秩序」から「複数の国が競い合う秩序」へ移りつつあります。
その変化の中で、国際法や国連の仕組みがどこまで機能できるのか。
そして、大国同士の対立を抱えながら、各国がどこまで共通のルールを維持できるのか。
2026年の国連総会が突きつけたのは、まさにこの問題だったのではないでしょうか。
第81回国連総会の一般討論は、2026年9月22日から26日を中心に行われ、9月28日にも予定されています。詳しい日程は国連総会議長室の公式日程をご確認ください。

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