建設業の人手不足は、なぜ日本の成長戦略に関わるのか? 370兆円の数字とあわせて整理
「建設業の人手不足」と聞くと、建設会社や職人さんの問題だと思うかもしれません。ところが、今回この問題を取り上げているのは、建設業界だけではありません。政府が「成長戦略を実行するうえでの課題」として、建設分野の労働力不足への対応を検討する方向で調整しています。
なぜ、建設業の人手不足が、日本全体の成長戦略につながるのでしょうか。
背景には、工場、データセンター、電力設備、道路など、これから国内で増やしていこうとしているさまざまな施設があります。そして、これらを実際につくるのは建設業です。
この記事では、2026年9月30日に報じられたニュースを入り口に、建設業の人手不足と国の成長戦略がどのようにつながっているのかを、できるだけ専門用語を使わずに整理します。
この記事のポイント
- 政府は、建設分野の労働力不足を、国内投資を進めるうえでの課題と位置づけ、関係省庁の検討の場を設ける方向で調整しています。
- 建設業では、働き手が減り、高齢化が進んでいます。
- 国は、賃金や労務費の確保、働き方の見直し、省人化の技術づくりなどを進めています。
- 今回の政策パッケージの中身は、まだ公表されていません。
1 NHKが報じた内容
2026年9月30日、NHKが「政府が、成長戦略の実行に向けて、建設分野の労働力不足への対応策を検討する方向で調整している」と報じました。
報道によると、政府は7月、AI・半導体や造船など17の分野に、国と民間が連携して投資する計画を盛り込んだ新しい成長戦略をまとめました。近く日本成長戦略会議を開き、実行に向けた当面の課題を確認する予定です。
その課題の一つが、建設分野の労働力不足です。国内で投資を進めるうえでの課題として、関係省庁の検討の場を設け、対応策を盛り込んだ政策パッケージをまとめる方向で調整しているとされています。このほか、AIの推進に向けた規制の見直しや、データセンターなどの拡大に伴う電力インフラの確保も検討する方針です。政府は、これらの検討結果も踏まえて、年末にかけて、複数年度にわたる実行計画をまとめるとしています。
2 「370兆円」とは何のお金か
成長戦略の中で、大きな数字として示されたのが「370兆円超」です。
これは、17の戦略分野に関連する主要な製品・技術などへの、国と民間の投資額(主として国内)について、2040年度までの累計を想定した金額です。あくまで現時点の想定で、今後の予算編成などを通じて精査するとされています。また、建設投資だけの金額ではありません。
ただ、新しい工場や研究施設、データセンター、電力の設備などをつくったり広げたりするには、建設工事が欠かせません。投資を実際の形にする段階で、工事を担う人が足りなければ、計画が思うように進まないおそれがあります。
3 建設業の人手不足は、どのくらい深刻なのか
日本建設業連合会が整理した数字では、2025年の建設業の就業者は478万人でした。このうち、現場で実際に作業を担う「技能者」は296万人で、300万人を下回っています。ピークだった1997年と比べると、次のとおりです。
図1 建設業の就業者数の変化(1997年ピーク時と2025年)
1997年(ピーク時)2025年
建設業の就業者
うち技能者(現場で作業を担う人)
就業者は1997年比で69.8%、技能者は63.8%まで減少。
出典:日本建設業連合会「建設業の現状 建設労働」(総務省「労働力調査」に基づく)
高齢化も進んでいます。国土交通省の白書によると、2024年時点で、就業者に占める55歳以上の割合は、全産業が32.4%なのに対し、建設業は36.7%です。反対に、29歳以下の割合は、全産業が16.9%なのに対し、建設業は11.7%にとどまります。
図2 就業者の年齢構成:建設業と全産業の比較(2024年)
建設業全産業
55歳以上の割合
29歳以下の割合
出典:国土交通省「令和7年版国土交通白書」第Ⅰ部第1章(総務省「労働力調査」より国土交通省作成)
ベテラン世代の割合が高く、若い世代の割合が低い状況が続けば、将来的な担い手の確保だけでなく、技能や経験を次の世代へ引き継ぐことも課題になります。
4 国は建設業の人手不足にどう対応してきたか
国の取り組みは、大きく四つに分けられます。すでに動き出している制度もあれば、現在も検討が続いているものもあります。まず、主な動きを時系列で見てみましょう。
図3 主な制度・取り組みの時系列
- 2024年4月1日適用開始建設業に時間外労働の上限規制が適用されました。
- 2025年12月12日全面施行「第三次・担い手3法」が全面的に施行されました。
- 2026年9月4日公表済み「建設分野におけるフィジカルAI戦略」の中間とりまとめが公表されました。
- 2026年9月17日開催済み企業評価ワーキンググループの第1回が開かれました。
- 2026年10月1日開催予定入札・発注ワーキンググループの第1回が開かれる予定です。
- 2026年末にかけてとりまとめ予定政府が、複数年度にわたる実行計画をまとめるとしています(報道による)。
濃い丸は実施・公表済み、白い丸は予定です。
(1) 働き手の処遇を良くする
2025年12月12日、「第三次・担い手3法」が全面的に施行されました。建設工事の請負契約で、技能者の賃金のもとになる「労務費」を、発注者から元請、下請までの各段階で適正に確保する考え方が示されています。中央建設業審議会が作成・勧告した「労務費に関する基準」を著しく下回る見積りや、その水準への変更を求める行為などを禁止する仕組みも設けられています(国土交通省「『労務費に関する基準』の運用方針」)。
(2) 働き方を見直す
2024年4月1日から、建設業にも、時間外労働の上限規制が適用されています。違反した場合は罰則の対象になります。長時間労働をなくし、週休2日を確保することは、若い人に選ばれる業界になるための課題とされています。
(3) 技術で人手不足を補う
国土交通省は、建設分野でAIやロボットなどを活用する「建設分野におけるフィジカルAI戦略」の中間とりまとめを、2026年9月4日に公表しました。AIの実装によって現場で働く人の能力を拡張し、生産性の向上などを目指す取り組みです。現場に配置する技術者の制度も、担い手不足やICT技術の進歩を踏まえて、見直しの検討が続いています。
(4) 会社の評価や、工事の発注のしくみを見直す
国土交通省の有識者の検討会の下に、二つのワーキンググループ(テーマ別の検討チーム)が設けられました。
- 企業評価ワーキンググループ:2026年9月17日に第1回が開かれました。建設会社をどう評価するかを検討しています。評価の候補として、会社の成長性、賃金などの処遇改善、従業員の教育、DXなどによる生産性の向上、技術者の能力や実績が挙げられています。ただし、配点や実施の時期などは資料に記載がなく、決まったとはいえません。
- 入札・発注ワーキンググループ:2026年10月1日に第1回が開かれる予定です。地方公共団体が工事を発注する制度について、発注を担当する職員の減少や、災害時の対応に焦点を当てて検討します。
今回報道された政策パッケージが、これらの動きとどう関わるかは、現時点では分かっていません。
5 私たちの暮らしとのつながり
建設業の人手不足は、遠い業界の話ではありません。あくまで一般論ですが、次のような形で私たちの生活に関わってきます。
- 道路や橋、上下水道などの維持・更新や、災害からの復旧に、時間がかかる可能性があります。
- 住宅や店舗、工場などの工事で、完成が遅れたり、費用が上がったりする可能性があります。
- 賃金を確保する仕組みが整えば、若い人が建設業を選びやすくなり、長い目で見て、地域を支える担い手が増えることが期待されます。
6 まだ決まっていないこと
最後に、現時点で分かっていないことを整理します。
- 政策パッケージの内容と、取りまとめの時期は、公表されていません。
- 検討の場が、どのような構成になるのかも、明らかになっていません。
- 企業評価の新しい項目や、その配点、適用の時期は、決まっていません。
- 370兆円超は、現時点での想定額で、今後精査される予定です。
今後、日本成長戦略会議での議論や、年末にかけてまとめられる実行計画で、建設分野の対応が具体的に示される見込みです。
「370兆円」「政策パッケージ」「人手不足」「AI」など、大きな言葉が並ぶニュースだからこそ、何が決まったことで、何がこれから検討されることなのかを分けて見ることが大切です。今回のニュースについても、今後の議論や実行計画によって、具体的な内容が明らかになっていくことになります。
用語メモ
- 技能者
- 現場で実際に作業を担う人(大工、鉄筋工、左官など)。
- 労務費
- 工事費のうち、現場で働く人の賃金のもとになる費用。
- 担い手3法
- 建設業で働く人を確保・育成するための、三つの法律の総称。
- ワーキンググループ
- 国が会議の下に設ける、テーマ別の検討チーム。
- 官民投資
- 国(政府)と民間企業が、それぞれ出すお金による投資。
主な出典
本記事は、2026年9月30日時点の公表情報に基づいています。
- NHK「政府 成長戦略実行に向け建設分野の労働力不足の対応策検討へ」(2026年9月30日)
- 首相官邸「官民投資ロードマップ」(2026年6月24日)
- 内閣府 経済財政諮問会議資料「戦略17分野の『主要な製品・技術等』における官民投資額」(2026年6月24日)
- 日本建設業連合会「建設業の現状 建設労働」
- 国土交通省「令和7年版国土交通白書」第Ⅰ部第1章(建設業就業者の年齢構成)
- 国土交通省「『労務費に関する基準』の運用方針」(2026年6月最終改正)
- 関東地方整備局「建設業の時間外労働規制まとめサイト」
- 国土交通省「建設分野におけるフィジカルAIの導入」
- 国土交通省「適正な施工確保のための技術者制度検討会 第8回開催について」
- 国土交通省「企業評価ワーキンググループ 第1回配付資料」(2026年9月17日開催)
- 国土交通省「入札・発注ワーキンググループ 第1回開催について」(2026年10月1日開催予定)

コメント
コメントを投稿