「安保3文書」改定で何が変わる?――防衛費と暮らし、平和の行方を考える
「安保3文書」という言葉を、ニュースで耳にする機会が増えました。安全保障は外交や軍事の専門的な問題と思われがちですが、実は私たちの暮らしや将来にも深く関わっています。
政府は2026年末までに、この3文書を改定する方針です。NHKの「安全保障3文書」についての解説(2026年10月26日)でも、その背景や論点が詳しく取り上げられています。
今回の見直しは、日本がどのような方法で平和と安全を守り、そのためにどれほどの負担を引き受けるのかという、国の基本的な方向を左右するものです。私たち市民も、その意味を理解し、何が問われているのかを考えておく必要があります。
「安保3文書」とは何か
「安保3文書」とは、2022年12月に政府が決定した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3つを指します。日本の安全を守るための基本方針から、具体的な防衛戦略、装備や予算までを定める、いわば安全保障政策の設計図です。
安保3文書の役割
2022年の決定では、相手国のミサイル発射拠点などを攻撃できる「反撃能力」の保有が打ち出されました。また、防衛費と関連経費を2027年度に国内総生産(GDP)の2%とする目標も掲げられ、政府は2025年度に前倒しで達成したとしています。
政府は「専守防衛」の原則を維持すると説明していますが、日本の防衛政策が実質的にどう変わるのかは、引き続き重要な論点です。
なぜ今、改定するのか
改定を前倒しする背景には、大きく二つの変化があります。一つは日本を取り巻く安全保障環境の悪化、もう一つは戦争の形そのものの変化です。
中国の軍事力拡大、北朝鮮の核・ミサイル開発、ロシアによるウクライナ侵攻など、国際情勢は厳しさを増しています。さらに、ウクライナや中東の戦闘では、比較的安価なドローンが大量に投入され、高価な迎撃システムを消耗させるなど、従来とは異なる戦い方が広がっています。
こうした変化に対応することは必要です。しかし、軍備を増やせば必ず安全になるとは限りません。相手国がそれを脅威と受け止め、互いに軍拡を進めれば、かえって緊張が高まる可能性もあります。
大切なのは、軍備の強化を無条件に肯定することでも否定することでもなく、どのような備えが実際に戦争を防ぐことにつながるのかを冷静に見極めることです。
改定の焦点は何か
今回の改定では、ドローンやAIの活用、衛星を含む通信網の強化、迎撃ミサイルとレーザーなどを使い分ける防衛体制の整備が検討されています。
また、連立政権の枠組みが変わったことも注目点です。自民党と日本維新の会の提言には違いがあり、維新は非核三原則のうち「持ち込ませず」の現実的な検討や、原子力潜水艦の早期導入を提案しています。一方、自民党の提言はこれらに言及していません。
いずれも政府として決定されたものではありませんが、広島・長崎への原爆投下を経験した日本にとって、非核三原則の扱いは歴史的にも重い意味を持ちます。議論を進めるのであれば、国民への十分な説明が欠かせません。
防衛費はどこまで増えるのか
私たちの暮らしに直接関わるのが、防衛費とその財源の問題です。米国は同盟国などに対し、国防費についてGDP比3.5%を基準とするよう求めています。
NHKの解説によれば、仮に日本がこの水準を採用すると、2025年度の名目GDPをもとにした試算で年間20兆円を超えます。2026年度の防衛費予算9兆円余りと比べると、倍以上の規模です。
防衛費の規模を比較すると
年間の金額・概数(単位:兆円)
※NHKの2026年10月26日付解説による比較。20兆円超はGDP比3.5%を仮定した試算であり、政府が決定した予算ではありません。棒の長さは概数を模式的に示しています。
ただし、政府は防衛費の新たな規模も財源も決めていません。自民党の提言にも具体的なGDP比の目標は示されておらず、木原官房長官は、金額を先に決めるのではなく、防衛力の中身が重要だと説明しています。
安価なドローンが高価な兵器を消耗させる時代に、予算を増やすことがそのまま防衛力の向上を意味するとは限りません。費用対効果とともに、財政的に持続可能な計画であるかが問われます。
しかも、国には医療・介護、教育、子育て、災害への備えなど、取り組むべき課題が山積しています。防衛費の増額が直ちに社会保障の削減につながるわけではありませんが、限られた財源をどう配分し、負担をどう分かち合うのかという議論は避けられません。
「国を守る」とは、何を守ることなのか
安全保障を考えるうえで、軍事力とともに忘れてはならないのが外交の役割です。国家間の対立を軍事力だけで解決することは困難であり、対話を重ね、相互の不信を和らげ、偶発的な衝突を防ぐ努力が欠かせません。
また、反撃能力の行使をどのような条件で認めるのか、憲法9条や専守防衛の原則とどう整合させるのか、国会がどのように関与するのかについても、十分な議論が必要です。安全保障上の機密を守りながらも、政策の目的や国民負担について説明責任を果たすことが求められます。
今回の改定で私たち市民が注視すべきなのは、防衛力の強化が本当に戦争の危険を減らすのか、外交による緊張緩和の努力は十分なのか、そして財政負担や国民生活への影響が適切に説明されているのかという点でしょう。
国を守るとは、領土や国家の制度を守ることだけではないはずです。そこに暮らす人々の生命と尊厳、自由、そして穏やかな日常を守ることこそ、その根本にあるのではないでしょうか。
平和は、軍事力だけで保証されるものでも、
願うだけで実現するものでもありません。
現実の脅威から目をそらさず、同時に軍事力だけに依存することなく、外交と対話によって戦争を防ぐ努力を重ねる。私たち市民が事実を確かめ、異なる意見にも耳を傾けながら、国の進む方向を問い続けること。その積み重ねもまた、平和を支える大切な力なのだと思います。
NHK解説委員室「“安全保障3文書”そもそも?なぜ改定?焦点は?暮らしにも?」
2026年10月26日/山下毅・相澤祐子 解説委員
※2026年10月27日時点の情報に基づき構成。改定をめぐる論点には検討段階のものも含まれます。本文にはNHKの解説を踏まえた筆者の考察を含みます。

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