脅威は現実。だからこそ「強いブレーキ」が要る――高市政権のインテリジェンス強化をどう見るか

はじめに:ある記事で、戸惑いが具体的な疑問に変わった

「外国の不当干渉の防止強化」。首相の発言をそう伝える記事を読み、私はまず戸惑いました。総理が代わってから、急に聞き慣れない言葉が並び始めたように感じたからです。

その戸惑いを具体的な疑問に変えたのが、9月29日付の毎日新聞の記事でした。見出しは「首相肝いりインテリジェンス有識者会議 人選にも『高市色』」。9月28日の初会合を伝える記事です。

読んで、疑問がいくつも浮かびました。

  1. なぜ、今こんなことが進んでいるのか
  2. 歴代の政権は、この分野で何をしてきたのか
  3. 高市首相は、どんな政治的な立場の人なのか
  4. 本当に、それほどの危機があるのか
  5. 「高市色」と報じられた17人は、どんな人たちで、何を検討する会議なのか
  6. そして何より、情報を強くする仕組みを作るなら、その仕組みを誰が監視するのか

政府資料、国会会議録、参議院調査室の資料、警察庁の資料、報道を突き合わせて、自分なりに確かめました。順番に書きます。

なお、ニュースでは「行政傍受」(安全保障目的で行政機関が通信を収集する仕組み)という言葉も目にします。これは今回の会議と直接結びつけると不正確になるので、後で整理します。

1. 「急に」ではなく、「階段を一段ずつ」

調べてまず分かったのは、この政策が突然生まれたものではないことです。

ひと目で見る「段差」の間隔(日付からの単純計算)

法案提出 → 成立(3/13 → 5/27)
75日
成立 → 発足(5/27 → 7/31)
65日
発足 → 有識者会議(7/31 → 9/28)
59日

約2か月ごとに、次の段が積み上がっている形です。

連立合意書には、「国家情報局」の創設、「国家情報会議」の設置、2027年度末までの「対外情報庁(仮称)」の創設、情報要員養成機関の創設、スパイ防止関連法制の検討・成立などが明記されています。

国家情報会議は、従来の事務次官級の内閣情報会議を格上げする形で、首相を議長とする閣僚級の会議として設置されました。国家情報局は、従来の内閣情報調査室を改組した官邸直属の組織です。

つまり、9月28日のニュースは「突然始まった新政策」ではなく、「すでに作られた司令塔を、次にどう使うのか」という段階に入った知らせです。

2. 歴代政権は何をしてきたか

日本のインテリジェンス体制には、70年以上の積み重ねがあります。

  • 1952年総理府に内閣総理大臣官房調査室を設置。のちに内閣情報調査室へ(1986年)
  • 1985年自民党議員立法の「スパイ防止法案」が提出されたが、成立せず廃案。最高刑に死刑・無期懲役を含む内容だった
  • 2006〜08年情報機能強化検討会議などを設置。内閣情報分析官、カウンターインテリジェンス・センターを整備
  • 安倍政権期特定秘密保護法(2013年)、国会の情報監視審査会(2014年)、国際テロ情報収集ユニット(2015年)
  • 岸田政権期2022年の国家安全保障戦略で「情報力」を国力の要素に位置づけ。2024年に重要経済安保情報保護活用法が成立
  • 石破政権期2025年にサイバー対処能力強化法が成立。通信情報の利用制度と、独立性の高い監理委員会を整備(通信情報の利用の施行は2027年秋までの予定)
  • 高市政権期国家情報会議・国家情報局を創設。対外情報機能、外国による不当な干渉への対策、スパイ防止関連法制を引き続き検討

この流れから見えること

① 高市首相も、突然この政策を言い出したわけではない。

2025年5月、高市氏が会長を務める自民党の治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会は、「諸外国と同水準のスパイ防止法」の導入検討を含む提言を、当時の石破首相に提出しました。その後、連立合意書にインテリジェンス改革が盛り込まれ、国家情報会議・国家情報局の創設につながっています。

② 一方で、今回は「質」が変わる可能性がある。

日本はこれまでも、衛星情報、外交情報、警察情報、防衛情報など、国外の情報を集めてきました。ただ、近年の制度整備では、機密保護、技術流出対策、サイバー防御、情報の集約・分析といった「守る」側の強化が目立っていました。これに対して連立合意書には、対外情報庁、情報要員養成機関、スパイ防止関連法制が並びます。さらに首相は2025年11月の国会答弁で、外国代理人登録法やロビー活動公開法の検討にも言及しています。「守る」だけでなく、「国外で集める」「外国勢力との関係を可視化する」方向へ、制度の射程が広がる可能性があります。

これまで目立った整備:「守る」側
  • 機密保護
  • 技術流出対策
  • サイバー防御
  • 情報の集約・分析
▶
連立合意書に並ぶ項目:射程の拡大
  • 対外情報庁(国外で集める)
  • 情報要員養成機関
  • スパイ防止関連法制
  • 外国代理人登録法・ロビー活動公開法(関係の可視化)

③ わずか2か月の間に、現状認識をめぐる表現が大きく変化した。

2025年8月の政府答弁書は、外国情報機関による情報収集活動の存在を認め、カウンターインテリジェンス機能の強化や違法行為の取締りに取り組んでいると説明しています。そのうえで、日本が「スパイ天国」で、スパイ活動が事実上野放しで抑止力が全くない国家だとは考えていない、と答えました。ところが、2か月後の10月20日の自民・維新の連立合意書は、インテリジェンス機能が脆弱で、国家機能の強化が急務だという認識を明記しています。

2025年8月(政府答弁書)

「スパイ天国」で、スパイ活動が事実上野放しで抑止力が全くない国家だとは考えていない

2か月
2025年10月20日(連立合意書)

インテリジェンス機能が脆弱で、国家機能の強化が急務という認識を明記

8月は政府の答弁、10月は与党間の合意で、主体は異なります。それでも、参議院調査室の資料が指摘するとおり、この現状認識については、より具体的な説明が求められるでしょう。「脆弱になった」のか、以前からの課題が優先順位として急に上がったのか。その違いは説明されるべきです。

④ ブレーキの問題は、すでに「宿題」として意識されている。

2014年の国会法改正の附則には、将来、海外の情報を収集する行政機関を設置する場合は、国会による監視のあり方を検討する、という趣旨の規定が置かれています。さらに2026年の国家情報会議設置法案の審議では、対外情報を収集する行政機関を設置する場合の国会による監視を求める内容を含む附帯決議が、衆院内閣委員会で採択されました。附則は法律の一部、附帯決議は国会の意思表明で、法的な位置づけは別のものです。また、現在の国家情報会議・国家情報局がこの附則の「行政機関」にあたるかどうかは、国会審議でも議論の余地があるとされています。ただ、対外情報庁を作るなら、国会による監視のあり方をどう制度化するかという問題は、避けて通れないでしょう。

3. 高市首相と安倍路線:どこが近く、どこが違うのか

確認できる事実は次のとおりです。

  • 高市氏は2025年5月、自民党の調査会長としてスパイ防止法の導入検討を提言した。
  • 高市氏は岸田政権で経済安全保障担当大臣を務めた。
  • 官邸主導の安全保障、経済安保、インテリジェンス機能の強化は、高市氏が以前から重視してきたテーマだと言える。

一方で、「安倍路線そのもの」と単純化するのは適切ではありません。情報制度の強化は、安倍政権だけでなく、岸田・石破政権にも引き継がれてきたからです。

私の整理はこうです。

近い点

官邸主導で安全保障を進めること、経済安保と情報機能の強化を重視すること。

継続している点

安倍政権以降、岸田・石破政権も情報保全、経済安保、サイバー防御の制度を積み上げてきたこと。

新しい点

対外情報庁、外国代理人登録法、ロビー活動公開法など、国内の情報保全にとどまらず、外国勢力との関係や国外での情報活動まで射程が広がろうとしていること。

大切なのは、「安倍路線に近い人だから危ない」とも、「安倍路線だから正しい」とも決めつけないことです。誰が首相でも、権限の設計に問題がないかを見る。そのために、ここまで整理しました。

4. なぜ今、進むのか:3つの変化

① 安全保障の舞台が、軍事から「情報」に広がった。

ミサイルを撃たなくても、技術を盗む、サイバー攻撃をする、偽情報を拡散するといった方法で、相手国の判断や社会に影響を与えられます。首相も9月28日の会議で、先端技術の不正流出、重要情報を狙ったサイバー攻撃、偽情報の拡散を脅威として挙げました。

② 情報を集める国家を、どう縛るかが問われるようになった。

「外国の影響を受けた人」とは誰のことでしょうか。外国企業から研究費を受けた大学教授、外国メディアの取材を受けた記者、外国人と交流する市民。もちろん、これらを一律に疑うべきだという話ではありません。むしろ逆で、どこからが「不当な干渉」で、どこまでが普通の国際交流なのか、その境界を法律が曖昧にしたままだと、正当な活動まで萎縮しかねません。国会でも、表現の自由やプライバシーとの関係が議論されました。

③ 「司令塔」ができた。

国家情報会議は、首相が議長を務める閣僚級の会議で、内閣官房はこれを「インテリジェンス活動の司令塔」と位置づけています。国家情報局はその事務局を担い、情報の収集・分析、各省庁の情報の集約、政府全体の情報活動の総合調整を行います。首相の求めに応じて、各省庁が資料・情報を提供する仕組みも法律に置かれました。

ただし、ここは正確に区別する必要があります。政府は国会で、国家情報会議設置法は国家情報会議や国家情報局に新たな捜査権限・調査権限を付与するものではなく、各省庁に新たな捜査権限・調査権限を与えるものでもないと説明しています。国家情報局は、従来の内閣情報調査室の情報収集に関する所掌事務を引き継ぐ一方、この法律によって新たな捜査・調査権限が付与されるわけではない、というのが政府の説明です。したがって、この法律の施行だけで、国家情報局が新たに通信傍受や逮捕を行えるようになったわけではありません。変わったのは、情報の集約と政府全体の総合調整の仕組みです。

行政傍受について。

安全保障目的の行政傍受は、今回の有識者会議とは別の場で議論が進んでいます。自民党のインテリジェンス戦略本部は、7月3日のヒアリングで、米国や豪州などの行政傍受の制度を比較して説明を受け、7月15日には、通信・電波を傍受する情報活動(SIGINT)について専門家から話を聞きました。8月5日の正式な提言には、外国代理人登録の義務づけ、外国干渉防止法、SIGINTやHUMINT(人を介した情報収集)など情報収集能力の強化、議会による監視、独立した監察機能が盛り込まれました。この提言が、行政傍受の導入そのものを求めているとまでは言えません。

一方、首相は7月15日の国会答弁で、与党として通信傍受を導入する考えがあるという報告は受けていないと述べ、通信の秘密との関係で慎重な検討が必要だと答えました。したがって、今回の有識者会議が行政傍受の導入を決める、とは言えません。ただ、通信を含む情報収集能力の強化が、すでに別の場で議論されていることは、押さえておく必要があります。

5. 脅威はどこまで本当か:証拠の強さを分けて見る

「危機がある」と一言で言っても、中身は一つではありません。

証拠が比較的強い証拠の読み方に注意が必要

証拠が比較的強いもの

強い
MirrorFace

警察庁は、中国の関与が疑われる攻撃グループ「MirrorFace」が日本の組織や個人を標的にしてきたと、注意喚起を出しています。

強い
約482億円 相当

暗号資産の窃取。DMM Bitcoinから盗まれた事件では、警察庁がFBIなどと共同で分析し、北朝鮮を背景とする「TraderTraitor」の関与を特定しました。

強い
2023年6月 逮捕

技術情報の流出。国立研究開発法人の研究員が、営業秘密であるフッ素化合物の技術情報を中国所在企業のメールアドレスに送信した事件で、不正競争防止法違反で逮捕されています。警察庁の資料に掲載されており、その後の裁判の判決も公開されています。

これらは「恐れ」ではなく、実際に起きた被害や検挙事例です。脅威そのものを「作り話」と片づけることはできません。

証拠の読み方に注意が必要なもの

要注意
偽情報・世論工作

外国による偽情報や世論工作は、政府も問題として認識しています。ただし、「外国の偽情報が存在する」ことと、「それによって日本の選挙や政策決定が実際に大きく左右された」ことは別の問題です。初会合の事務局資料も、衆院選に関して外国のものと疑われる不審アカウントの投稿を「一定数把握している」と書くにとどまり、件数や影響の大きさは示していません(私が確認できた範囲では)。

だから私は、「サイバー攻撃・技術流出」と「偽情報・外国干渉」を、同じ証拠の強さで語ってはいけないと考えます。

6. 見落としてはいけない事実:「今の法律では何もできない」わけではない

警察はすでに、外国による諜報活動やサイバー攻撃、技術流出を捜査・摘発しています。技術情報を不正に取得すれば、不正競争防止法が適用されることもあります。「スパイ防止法がないから何もできない」という単純な話ではありません。

一方、法制度の整備を求める側からは、現行法は情報を漏らした側や個別の犯罪行為の処罰が中心で、外国政府などによる組織的な活動そのものを対象にした包括的な制度ではない、という問題提起があります。首相も2025年11月の国会答弁で、外国代理人登録法やロビー活動公開法などについて、検討を始め法案を策定する考えを示しました。賛否の論点は、まさにここにあります。

ここに、私が「論証の空白」と呼ぶ溝があります。

脅威がある

▼
だから情報を集約する司令塔が必要(ここまでは理解できる)

▼
ここに、まだ埋まっていない溝

▼
だから外国代理人登録が必要
だからスパイ防止法が必要
だから通信傍受を広げる

この溝を埋めるのは、スローガンではなく、「現行法では対応できない具体的な行為類型は何か」「それを新しい制度で対象にする必要性は何か」「そのために権利を制約するのは必要かつ相当か」という説明です。「現行法で処罰できなかった事件」だけが根拠になるわけではありません。既存の法律が分散していて対応しきれない部分や、現行法の対象外になっている行為を示す方法もあるでしょう。私が確認できた公開資料の範囲では、そうした説明はまだ十分に具体化されていません。参議院調査室も、「インテリジェンス機能が脆弱」という現状認識について、より具体的な説明が求められるとしています。

7. 有識者会議の17人:「高市色」はどこまで言えるか

9月28日に初会合が開かれた有識者会議は17人で構成されています。政府公表の名簿によると、大学関係者10人、企業4人、シンクタンク1人、弁護士1人、元検察幹部1人です。座長は、互選で選ばれた渡部俊也・東京大学名誉教授です。

  • 大学関係者10人
  • 企業4人
  • シンクタンク1人
  • 弁護士1人
  • 元検察幹部1人

毎日新聞は、この人選に「高市色」がにじむと報じました。これは報道上の評価です。では、私たちは何を確認できるのでしょうか。

×「17人全員が首相の支持者」

確認できません。言い過ぎです。

○「政府が必要と位置づける分野の専門家が幅広く選ばれている」

確認できます。政府は、国際情勢、経済安全保障、先端科学技術、サイバー、情報発信、影響工作、法律などの専門家を集めたと説明しています。

○「法律・権利の専門家もいる」

これも事実です。情報法や行政法を専門とする人が含まれています。

つまり、「強化を支持する人だけを集めた」とも、「十分に批判的な人を集めた」とも、現時点では断定できません。人選の政治的な性格は、実際の議論の中身を見なければ判断できないと考えます。今後公開される議事要旨で、「強化する側の論理」と「止める側の論理」がどの程度議論されたのかを確認したいと思います。

脅威を認定する専門家は、十分にいます。では、認定を間違えたときに止める仕組みについての議論は、どれだけ重みを持つのでしょうか。

8. この会議は何を、どう検討するのか

この会議は、法律を直接決める機関ではありません。内閣総理大臣の決裁に基づき、インテリジェンス機能の強化のために必要な施策を検討する有識者会議です。設置の趣旨からは、「強化すべきか」を白紙から問うというより、「何を、どのように強化するか」を検討する会議だと読めます。

初会合では、事務局の説明と討議が行われました。首相は、政府の情報活動の中長期的な方策を「国家情報戦略」として取りまとめ、公表するよう求めています。事務局資料が挙げた想定項目には、次のようなものがあります。

  • 情報活動の意義・重要性
  • 情報部門と政策部門の分離による客観性の確保
  • 人材の確保・育成
  • AIなど先端技術の導入・活用
  • 個人情報・プライバシーの保護、民主的統制

政府自身が「強化」だけでなく、「客観性」「プライバシー」「民主的統制」を項目に挙げています。問題は、それが実際の制度になるかどうかです。

  1. 独立した監督機関を置くのか
  2. 国会への報告をどうするのか
  3. 誤った情報収集をどう訂正するのか
  4. 情報機関の政治利用をどう防ぐのか
  5. 裁判所の関与をどこまで求めるのか

これは、今後出てくる戦略や法案を見なければ判断できません。国家情報戦略を最終的にどの手続きで決めるのかも、私が確認できた公開資料にはありませんでした。

運営要領(案)にも注目しています。

  • 資料は原則公開。ただし座長が必要と認めれば非公開にできる
  • 議事の説明では、発言者の氏名は原則伏せる
  • 事務局は国家情報局が務める

情報を扱う会議に一定の非公開性が必要だという説明は理解できます。ただ、「誰が、どんな理由で、どの程度の権限を支持したのか」が外部から検証しにくくなる面もあります。議事要旨や資料を、できる限り具体的に公開してほしいと思います。

9. 私の見方:「誰を信じるか」より「仕組みを見よう」

① 政権交代テスト。

今の首相を信頼できるかではなく、別の政権が同じ権限を握っても納得できる制度かで判断する。権限は、作った人だけが使うものではありません。

② 「見える化」は国家にも。

外国の影響を市民に見えるようにするなら、政府も、何を脅威と認定し、どの程度調べ、後から誤りと分かったものは何かを、可能な範囲で公開するべきです。透明性が一方通行では、民主主義を守る道具になりません。

③ 民主主義を守るために、民主主義を弱めない。

偽情報への対策は、政府の収集力を上げることだけではありません。報道が検証でき、国会が監視でき、裁判所がチェックでき、市民が批判できる環境そのものを守ることも、外国の影響に強い社会をつくる一部です。

④ 歴史を知った上で、過度に恐れない。

1985年のスパイ防止法案は、死刑・無期懲役を含む重い刑罰を定めていました。戦前の軍機保護法などの歴史も、記憶されるべきです。一方で、現在検討されている制度を、そのまま戦前の弾圧と同一視するのも正確ではありません。外国政府による情報活動と、普通の国民の政治活動は別のものだからです。だからこそ、何を対象にするのか、誰が認定するのか、どんな手続きを踏むのか、間違ったとき誰が止めるのかを見る必要があります。

10. 私たちが見るべき5つのポイント

今後、「国家情報戦略」や法案が出てきたら、次を確認してみてください。

  1. 「外国勢力」「不当な干渉」の定義は具体的か。曖昧な言葉のままでは、対象が広がりすぎます。
  2. 「不当」かどうかを、政府だけで判断していないか。国会、裁判所、独立した監督機関のチェックがあるか。
  3. 誤って疑われた人が、知る・争う・訂正を求める手段を持っているか。
  4. 現行法では対応できない行為類型と、新制度の必要性が、数字や具体例とともに示されているか。「海外にはこういう制度がある」だけでなく、日本で何ができないのかを示してほしいと思います。
  5. 対象が外国政府から「外国と接点のある日本人」に広がっていないか。研究者、記者、市民団体、大学、企業。国際交流が当たり前にある社会で、どこまでを「外国の影響」と呼ぶのか。ここが最も注意が必要です。

なお、推進する側も、この問題を意識していないわけではありません。自民党は2026年8月の提言で、情報防衛力を「抑止・収集・監督」の三本柱で強化するとし、議会による監視と独立した監察機能の強化も盛り込みました。問題は、こうした「監督」が、実際の法制度としてどこまで具体化されるかです。

おわりに:強いエンジンには、強いブレーキが要る

2026年4月の国会審議では、政府が情報活動を進める際には、政治的中立性や国民の権利への配慮が必要であることが繰り返し確認されました。首相も、特定の党派を利する目的で情報収集を命じることはしない、という趣旨の答弁をしています。さらに衆院内閣委員会の附帯決議には、特定党派の利益・不利益を図るための情報収集は行わないことが明記されました。これは重要な前進です。

ただ、附帯決議は国会の意思を示すものですが、法律の条文そのものではありません。民主主義の制度は、政治家の善意だけに依存してはいけません。「今の首相なら大丈夫」ではなく、「誰が首相になっても大丈夫」でなければならないからです。こうした約束が、決議や答弁にとどまるのか、法律の条文や独立した監督の仕組みに書き込まれるのか。それが、この政策の本当の姿を決めると思います。

サイバー攻撃も、技術流出も、外国による情報活動も、実際に確認されています。だから、情報を強くすること自体を恐れる必要はありません。ただ、情報を集める国家が強くなるほど、その国家を監視する仕組みも同時に強くしなければならない。それが民主主義の最低条件だと思います。

脅威は現実です。だからこそ、強いエンジンには、強いブレーキが要ります。

参考情報

一次資料(政府・国会・警察庁・政党)

有識者会議・国家情報会議

国会(審議・附帯決議・答弁・条文)

警察庁・司法

自民党

補助資料

批判・別視点の資料

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