国の予算は誰のため?――「成長投資」と「財政規律」を市民の視点から考える
国の予算編成が、大きく変わろうとしています。 2026年10月27日のNHK「時論公論」では、 「様変わりの予算編成 どう両立する成長と財政規律」 と題して、成長分野への積極的な投資と、悪化する財政をどう両立させるのかが論じられています。
この記事では、このNHK「時論公論」を出発点として、 政府は予算を作るときに何を考えるべきなのか、 そして私たち市民は、政府が作った予算をどのように確認すればよいのかを考えてみます。
今回の予算編成で、何が変わろうとしているのでしょうか
NHK「時論公論」が取り上げている今回の予算編成には、 これまでとは異なるいくつかの特徴があります。 とりわけ重要なのは、単に支出を抑えるのではなく、 将来の成長につながる分野には、政府が積極的に資金を投入しようとしていることです。
官民投資を促す目標
重点分野
製品・技術
概算要求総額
1.成長のためなら、いくら使ってもよいのでしょうか
政府が成長分野への投資を強化すること自体は、決して悪いことではありません。 AI、半導体、造船、防衛など、将来の産業競争力を左右する分野に投資し、 民間企業の投資を呼び込むことには意味があります。
しかし、ここで重要になるのが、 「政府が支援すれば、本当に成長するのか」という問題です。
政府には、企業や投資家とは異なり、利益だけを基準に判断することはできません。 一方で、政府だからこそ将来性を正確に見通せるとも限りません。 技術の進歩や市場環境の変化を考えれば、 現時点で有望に見える分野が、将来も成功するとは限らないからです。
さらに重要なのが、うまくいかなかった場合にどうするかです。 政府の支援事業には、いったん始めると、そのまま長期間続いてしまうものがあります。
だからこそ、最初から 「どのような成果が出なければ支援を終了するのか」 という出口を決めておく必要があります。 成果が乏しい事業を見直し、その資金をより効果の高い分野へ移す仕組みが欠かせません。
2.「補正予算」から「当初予算」へ――なぜ重要なのでしょうか
今回の予算編成では、もう一つ注目すべき変化があります。 これまで補正予算に計上されることが多かった継続的な事業を、 できるだけ当初予算に組み入れようとしていることです。
継続的な事業も入り込む
より長い時間をかけて審査
本来、補正予算は、当初予算を作った後に発生した緊急の支出などに対応するためのものです。 ところが、毎年のように続く事業まで補正予算に計上されると、 国会で十分に検討する時間が短くなってしまいます。
継続的な支出を当初予算に移すことは、 「そのお金を本当に使う必要があるのか」を毎年確認する機会を増やす という意味で重要です。
3.国の予算は、そもそも誰のお金なのでしょうか
国の予算について考えるとき、忘れてはいけないのが財源です。 政府が使うお金のすべてが税金で賄われているわけではありません。 税収だけでは足りないため、国は国債を発行して財源を補っています。
2026年度末の国債残高は、およそ 1145兆円に達する見込みです。 国債が増え続ければ、将来の国民が返済や利払いを負担することになります。
また、国債の発行が増えれば、国債価格が下落して金利が上昇する可能性があります。 金利が上がれば、住宅ローンや企業の借入金利にも影響します。 つまり、財政問題は政府だけの問題ではなく、 私たちの暮らしや企業活動にもつながる問題なのです。
4.税収が増えれば、問題は解決するのでしょうか
政府は、消費税の減税や給付などを行う場合でも、 できるだけ赤字国債を増やさず、税収の上振れや補助金・税制上の優遇措置、 基金などを見直して財源を確保しようとしています。
実際、最近は税収が当初の見込みを上回る年が続いており、 2025年度は当初見込みを 6.4兆円上回りました。
したがって、好調な税収を前提として恒久的な支出を増やしてしまえば、 景気が悪化したときに財政運営が一気に苦しくなる可能性があります。 「今、税収が増えている」ことと、「これからも安定して増え続ける」ことは別問題 と考える必要があります。
5.基金や補助金は、「使ったか」ではなく「役に立ったか」
予算を見るとき、私たちは「何兆円使った」という数字に目を奪われがちです。 しかし、本当に重要なのは、そのお金が社会にどのような効果をもたらしたかです。
国には200を超える基金があり、2027年度末には約7兆円の残高が見込まれています。 中には、すぐには使われないまま残っている資金もあります。
効果が乏しい基金や事業があれば、その資金を国庫に戻し、 本当に必要な分野へ振り向ける。 こうした「資金の入れ替え」ができるかどうかも、 財政規律を守るうえで重要になります。
6.私たち市民は、国の予算をどう確認すればよいのでしょうか
国の予算は非常に複雑です。 すべてを細かく読む必要はありません。 私たちが確認するときには、次の4つの視点を持っておくと、 かなり見通しがよくなります。
7.本当の評価は「決算」で行います
予算は「これから何にお金を使うか」という計画です。 そのため、予算が成立しただけでは、本当の評価はできません。
私たちが確認すべきなのは、その後です。
つまり、市民が予算を見るときには、 「この政策に1000億円ついた」というニュースだけで終わらせず、 翌年度以降に 「実際にどれだけ使われたのか」「何が達成されたのか」 「成果がなければ見直されたのか」 を追うことが大切です。
8.政府が「勝者」を決めるだけでよいのでしょうか
成長戦略の難しさは、政府が重点分野を決めることそのものにもあります。 政府が「この技術が将来有望だ」と判断して支援しても、 実際の市場で成功するとは限りません。
だからこそ、政府だけですべてを判断するのではなく、 金融機関や民間企業など、市場に近い立場の判断も組み合わせることが考えられます。
政府のお金を呼び水として民間資金を引き出し、 民間側にも事業の将来性を判断してもらう。 そのうえで、成果が出なければ支援を縮小・終了する。 こうした仕組みがあれば、政府による「選択と集中」のリスクを小さくできます。
9.成長と財政規律は、どちらか一方ではありません
ここまで考えてくると、今回の予算編成が抱えている難しさが見えてきます。
経済が成長しなければ、企業の利益や所得が増えず、 結果として税収も増えません。 その意味では、将来の成長に必要な投資を行うことは重要です。
しかし、財政が極端に悪化すれば、国債の金利上昇などを通じて、 かえって経済活動を圧迫する可能性があります。 成長のために財政を使うことと、財政を持続可能にすることは、 本来、対立するものではありません。
では、私たちは何を見ればよいのでしょうか
国の予算を見るとき、難しい数字をすべて理解する必要はありません。 大切なのは、政府が示す「金額」だけでなく、 その金額の先にある政策目的と成果を見ることです。
- なぜ、この支出が必要なのでしょうか。
- その金額は妥当なのでしょうか。
- 誰が、どのような利益を受けるのでしょうか。
- どのような成果が出れば成功なのでしょうか。
- 成果が出なかった場合、誰が、いつ、どう見直すのでしょうか。
こうした問いを持つだけでも、予算を見る目は大きく変わります。 「政府が何兆円使うのか」ではなく、 「そのお金を使うことで、社会にどんな価値を生み出そうとしているのか」 と考えることができるからです。
結局のところ、国の予算を見るときに問うべきなのは、 「いくら使うのか」だけではなく、 「そのお金によって将来に何を残すのか」ということです。 政府には、限られた財源を将来の価値につながる分野へ振り向け、 成果の乏しい事業を見直し、その判断の根拠を国民に説明する責任があります。 そして私たち市民には、予算が成立した時点で終わりにせず、 実際にどう使われ、どのような成果を生み、 必要であれば何が見直されたのかまで確かめる役割があります。 成長と財政規律を両立させるとは、 支出を増やすか減らすかを争うことではなく、 いま使うお金が将来の豊かさにつながるのかを問い続けることです。 その意味で国の予算は、政府だけのものではありません。 それは、私たちがどのような社会を選び、 次の世代に何を引き継ぐのかを考えるための、 最も重要な公共の設計図の一つなのです。

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