「忙しい」は「成果」ではない。パーキンソンの法則から考える、仕事を減らす組織づくり

「最近、仕事が減らないな」「会議ばかり増えている気がする」と感じたことはありませんか。

役所でも会社でも学校でも、町内会やPTAでも、「やることがどんどん増えていく」という現象はどこにでもあります。この現象を説明してくれる有名な考え方が「パーキンソンの法則」です。

この記事では、むずかしい専門用語をできるだけ使わずに、この法則から私たちが学べることを、実際の研究も交えて整理します。

パーキンソンの法則とは

『日本の人事部』では、パーキンソンの法則として、主に次の2つが紹介されています。

第一法則
仕事は、与えられた時間を満たすまで膨らむ
第二法則
支出は、収入に達するまで膨らむ

身近な例で考えてみましょう。夏休みの宿題は、期限までまだ時間があると、つい時間をかけてしまいがちです。ところが、締め切りが迫ると急に進むことがあります。予算も同じで、余っていると「せっかくだから何かに使おう」と考えがちです。

パーキンソンが注目したのは「役所の人員の増え方」でした

パーキンソンがこの法則を論じる際に取り上げたのは、個人の宿題のような話ではなく、役所の人員の増え方でした。

この観察を紹介している数理モデルの論文(Klimek、Hanel、Thurner、arXiv)によると、英国の植民地省では、1935年から1954年にかけて、職員が年平均およそ6%ずつ増え、372人から1661人になりました。その間、管轄する植民地は大きく減少していました。

図1 英国植民地省の職員数
1935年
372人
1954年
1,661人
その間、管轄する植民地は大きく減少。職員は年平均およそ6%の増加。
出典:Klimek, Hanel & Thurner (2008)

仕事が減っているのに、人は増える。パーキンソンが注目したのは、まさにこうした現象でした。

本当に検証されているのか

「ただの笑い話ではないのか」と思う方もいるでしょう。実は、研究者たちが実際に調べています。ここでは3つの調査を、「何を調べたか」と「わかったこと」に分けて紹介します。

① 実験:作業が減ると、人はどうする?
何を調べた?
大学生に、顔写真を見て評価する作業を、何セットかやってもらいました。一部のグループには、途中で「最後のセットは、なくなりました」と伝えました。
わかったこと
作業が1セット減ったはずのグループは、そうでないグループよりも、手前の作業に時間をかけました。仕事が減っても、空いた時間を使い切るように動いたのです。同じ条件でやり直した実験でも、同じ結果が出ています。
② 役所の窓口:職員が多いと、サービスは良くなる?
何を調べた?
ドイツで、車の登録手続きをする役所の窓口を比べました。職員の数や、手続きの進め方と、サービスの質との関係を調べています。
わかったこと
職員が多い窓口でも、サービスの質が特に良いわけではありませんでした。また、手続きを細かく分けている窓口ほど、質が下がる傾向がありました。「人を増やせば良くなる」とは限らないことがわかります。
③ 学校と鉄鋼会社:なぜ、管理の人が増えるのか?
何を調べた?
公的な教育部門と、民間の鉄鋼会社。性格のちがう2つの組織で、管理を担当する職員の数の変化を調べました。
わかったこと
どちらの組織でも、パーキンソンの法則が言うような「管理の職員が増える」動きが確認されました。ただし、研究者たちは、その理由を「役人は増えたがるものだから」とは考えませんでした。現場の職員を管理部門へ昇進させることが、人員削減から職員を守る手段になっているのではないか、という見方です。
ここまでのまとめ
・仕事が減っても、人は時間を使い切るように動くことがある
・人が多いからといって、サービスが良いとは限らない
・組織が膨らむ理由は、「怠け心」や「悪意」だけでなく、組織の仕組みや人情にもありそう

「効率化」の落とし穴

「仕事を効率化しましょう」とよく言われます。しかし、10時間かかっていた仕事が5時間でできるようになると、「空いた5時間で別の仕事をしましょう」となりがちです。その結果、効率化したのに仕事の量が減らない、ということも起こり得ます。

図2 効率化で生まれた時間の行き先(説明用の例)
もともと
仕事 10時間
効率化して、余白を残すと
仕事 5時間
余白 5時間
効率化して、空いた時間を別の仕事で埋めると
仕事 5時間
新しい仕事 5時間
※時間の数字はわかりやすくするための仮の例です。

大切なのは、早く終わらせることだけではありません。生まれた余白を、別の仕事で埋めてしまわないことです。余白は、考える、人と話す、突発的な出来事に対応する、本当に大事なことに集中するための時間です。

予算は「使い切ること」が目的ではありません

第二法則は、税金などの限られた資源で運営される組織を考えるうえでも重要です。考える順番を入れ替えるだけで、見え方が変わります。

図3 予算を考える順番
× 悪い順番
予算がある→ 事業をやる→ 成果は後から考える
○ 良い順番
何のためか(目的)→ 必要な活動→ 必要なお金や人

『日本の人事部』の記事でも、予算をどれだけ使い切ったかではなく、投じた資金に対してどれだけの効果があったかで評価する考え方が紹介されています。

ほかの「法則」と並べて見えてくること

パーキンソンの法則は、ほかの有名な経験則と並べると理解しやすくなります。

ピーターの法則:優秀な担当者が、優秀な管理職とは限らない

「人は、現在の仕事で能力を発揮すると、次のポストへ昇進し、やがて能力を十分に発揮できない地位に達する」という考え方です。もともとは風刺的な本から広まりました。

131社
営業職のデータを分析
近年、これを経済学の手法で検証した研究が出ています(Benson ほか、2019年、Quarterly Journal of Economics)。

分析の結果、企業は現在の仕事の成績を重視して昇進を決める傾向があり、管理職としての適性を示す他の特徴が軽く扱われていました。さらに、管理職としての適性が低い人を昇進させることによる、ミスマッチのコストも大きいと推定されています。

ただし、企業も手をこまねいているわけではありません。管理職の責任が重い場合や、現場で成果給が強い場合には、昇進の判断で営業成績の比重を下げることで、そのコストを抑えていました。「すべての組織が愚かな昇進をしている」わけではない、という点は押さえておきたいところです。

パレートの法則(80:20の法則):成果は、一部に偏ることがある

まず、身近な場面で考えてみましょう。お店の売上の多くは、一部の人気商品や、一部のお得意さんから生まれていることが多いものです。職場でも、成果の大きな部分を、一部の人が支えているということがあります。

このように、成果が、全体の一部に偏って集まる傾向のことを、「パレートの法則」といいます。野村総合研究所は、たとえば「売上の8割は、2割の社員に依存する」といった傾向だと説明しています。そこから「80:20(はちじゅう・にじゅう)の法則」とも呼ばれます。

図4 「偏り」のイメージ(例:売上の8割を、2割の社員が生んでいる場合)
社員全体
2割
8割
売上全体
8割(上の2割の社員が生んだ分)
2割
8割と2割という数字は、あくまで目安です。実際には70:30や95:5になることもあり、「必ずこの比率になる」という意味ではありません。
参考:野村総合研究所 用語解説

もし重要な仕事が限られているのに、重要でない仕事まで一緒に膨らむなら、資源の多くがムダに使われている可能性があります。

グッドハートの法則:数字が目標になると、その数字は指標として機能しにくくなる

@IT「AI・機械学習の用語辞典」の解説によると、一般に「ある指標が目標になると、その指標は良い指標ではなくなる」と言い表される考え方です。英国の経済学者チャールズ・グッドハート氏が、経済政策をめぐって示した原則が元になっています。

身近な例で考えてみましょう。「会議を月10回開く」という数字を目標にすると、会議そのものが目的になり、本当に必要な話し合いかどうかが二の次になることがあります。目的は「課題を解決すること」なのに、いつの間にか「10回開催すること」が成果になってしまうのです。

本来の目的
課題を解決すること
→ すり替わる →
いつのまにかの目的
月10回、会議を開くこと

4つを重ねて考えてみる

4つの法則を重ねて考えると、組織では次のような流れが起こり得ます。

図5 組織の中で起こり得る流れ
1目標を立てる
↓
2指標を決める
↓
3人と予算をつける
↓
4会議・報告・調整が増える
↓
5管理の仕事が増え、組織が大きくなる
↓
6「ちゃんとやっているか」を確認する指標がさらに増える
↓
7指標を達成すること自体が目的になる
↓
8「で、何が良くなったの?」という疑問だけが残る

こうした流れは、組織の中で起こり得ます。自分の職場や活動に当てはまる部分がないか、点検してみる価値はあります。

私たちにできること:「何をしないか」を決める

ここまでの話から得られる重要な教訓の一つは、「何をするか」より「何をしないか」を決めることが大切だということです。次の4つの問いは、職場でも地域活動でも家庭でも使えます。

問い 1
本当に必要か
昔からやっているから続けているだけではないか
問い 2
何のためか
目的と、それによって生まれる価値は何か
問い 3
半分でもできないか
半分の時間・手間でも同じ成果が出せないか
問い 4
余白を残しているか
空いた時間を、すぐ別の仕事で埋めていないか

「会議は30分まで」「資料は10ページまで」「この事業は〇〇円まで」。このようにあえて制約を設けることは、質を下げることではありません。適切な制約を設けることで、本当に大切なものを選びやすくなります。

注意:「法則」といっても万能ではありません

パーキンソンの法則は、科学の厳密な法則というより、組織で起こりがちな現象を言い表した経験則です。検証した研究はありますが、どの組織でも必ずそうなるわけではありません。

自分たちの組織や暮らしの中に、仕事を膨らませる仕組みが隠れていないかを点検するための「めがね」として使うのが、いちばん役に立ちます。

まとめ

  • 仕事は、与えられた時間に合わせて膨らみやすい
  • 予算は、余ると使い切ろうとしやすい
  • 人を増やしても、サービスが良くなるとは限らない
  • 「忙しい」ことと「成果が出ている」ことは別
  • 数字が目標になると、本来の目的が見えなくなる
  • 大切なのは、何を増やすかより、何を増やさないか
  • 効率化して生まれた余白は、あえて残す

「仕事を増やして成果を出す」のではなく、
「仕事を減らして成果を際立たせる」。

これは、役所や企業だけでなく、私たちの毎日の暮らしにも使える考え方ではないでしょうか。

参考文献

パーキンソンの法則・予算
ピーターの法則
パレートの法則
グッドハートの法則

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