「遺憾です」と聞いたら、まず確認したい5つの質問

ニュースで政治家や企業が「誠に遺憾です」と話すのを、よく耳にします。強い言葉に聞こえますが、その言葉だけでは、何を言っているのか分かりにくいことも少なくありません。今回は「遺憾」という言葉を手がかりに、公式発言の読み方を考えてみます。

この記事は、「遺憾」という言葉を批判するものではありません。「遺憾」の一言で、どこまで説明したことになるのかを考える記事です。

「遺憾」の本来の意味は「残念」

「遺憾」は、思いどおりにならず残念に思うこと、という意味の言葉です。『日本国語大辞典』の編集に携わった神永曉さん(元小学館辞典編集部編集長)は、辞書編集者としての連載の中で、この語はもともと「残念に思う」という意味だったと説明しています。

現在の公式発言では、そこから広がって、相手への抗議や非難、自分たちの立場の表明といった場面でも使われています。

ここで大事なのは、「遺憾」という言葉だけでは、
謝罪したことにはならないという点です。

「遺憾に思います」と言った人が、「私たちに責任があります。申し訳ありません」と言っているとは限りません。

なぜ公式の場で使われるのか

「遺憾」という言葉だけでも、何らかの事態を「望ましくない」と評価していることは示せます。一方で、それだけでは、誰に責任があるのか、責任をどう考えているのか、今後何をするのかまでは示されません。

『問題な日本語 その4』(北原保雄編著、大修館書店)には、「遺憾」は謝罪の言葉なのかという質問に答える項があります。毎日新聞校閲センターの「毎日ことばplus」によると、その中で、当事者が直接のお詫びの言葉を使わずに、第三者的に責任逃れの立場を通せるからではないか、という趣旨の指摘がされているそうです。また、難しい漢語を使うと、真摯に対応しているように見せかける効果はあるものの、責任を明確にして謝罪すべき場面では、受け手がはぐらかされた気持ちになる、とも述べているそうです。これはあくまで同書の見解です。

また、「遺憾」という漢語の響きによって、実際の意味以上に強い態度表明のように受け取られることもあります。

ただし、ここで「遺憾=弱い言葉」と決めつけるのは正確ではありません。「遺憾」という言葉だけでは、強いのか弱いのか、分からないのです。

評価の言葉と、行動を示す言葉は別物です。

評価を示す言葉

「遺憾」「残念」「相容れない」「懸念している」と言うことは、問題をどう評価しているかを示します。しかし、それだけでは、何を要求し、何をするのかまでは分かりません。

行動・意思決定を示す言葉

「撤回を求めた」「説明を要求した」「国外退去を求めた」「調査する」「厳正に対処する」は、行動や意思決定を示す言葉です。

以下の実例は、この区別を意識して読んでみてください。

「遺憾」の向きと、その直後に置かれるもの

「遺憾」は、誰に向けて使うか、そしてその直後に何が続くかで、意味合いが変わります。実際の政府の記録で見てみましょう。

①自分側の問題について使う場合

2019年3月、厚生労働省の元賃金課長が韓国の空港で騒ぎを起こした件について、根本厚生労働大臣は会見で「極めて遺憾」と述べました。そのすぐあとに、事実関係を把握して厳正に対処する、と続けています。

一方、2014年の政府答弁書では、法務省職員が処分を受けたことについて、法務行政への国民の信頼を著しく損なうものであり「誠に遺憾」だと答えています。ほかに、職員の綱紀粛正について、会議や研修の機会に注意喚起してきたとも述べています。ただし、「遺憾」という言葉そのものから、誰がどのような責任を負うのかまでは分かりません。

②相手側の行為について使う場合

2022年10月、ロシア当局が在ウラジオストク日本総領事館の館員を拘束した事案で、林外務大臣は、明白かつ重大な国際法違反であり「極めて遺憾」だと述べ、「決して受け入れられません」と明言しました。さらに、在札幌ロシア総領事館の領事に国外退去を求める措置を取りました。外務次官がロシア大使を外務省に呼び、日本の立場を伝えています。

ここでの「遺憾」は、単なる「残念」という感情表明にとどまらず、明確な抗議・非難の文脈で使われています。しかも、国外退去の要求という具体的な措置が、同時に示されています。

つまり、同じ「遺憾」という言葉でも、

自分側の問題について使えば

「問題があった」という認識や評価を示すことがあります。

相手側の行為について使えば

「あなたの行為は問題だ」という批判や抗議を示すことがあります。

どちらの場合も、そのあとに処分や再発防止、要求や措置が続くことがあります。続かないこともあります。言葉だけを見ても、意味は決まりません。

言葉の強さに公式な序列はない

「遺憾」「懸念」「抗議」「非難」などを、強さの順に並べた表がよく紹介されます。しかし、今回確認した政府の公開資料では、これらを一律に強さ順に並べた公式の基準は見つかりませんでした。一般に語られる強弱の目安にすぎません。

遺憾?懸念?抗議?非難

図:並べ方に公式の決まりはありません

「どの言葉が一番強いか」を覚えても、あまり役に立ちません。大切なのは、誰が、誰に対して、何を言い、そのあと何をしたのかを見ることです。

実例:米国によるICCへの制裁

もうひとつ、最近の例を見てみます。アメリカによる国際刑事裁判所(ICC)への制裁です。

ICCは、ジェノサイド、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪といった重大な国際犯罪について、個人の刑事責任を問うための常設の国際刑事裁判所です。日本人の赤根智子さんが所長を務めています。

8月18日|個人への制裁

トランプ政権が、赤根所長らを制裁の対象に指定したと発表しました。

→

10月9日|機関への制裁

米国が個人だけでなく、ICCそのものにも制裁を科しました。

ICC自身の公式発表や米国財務省のページでも、この日付の措置が確認できます。

日本政府の説明を、首相官邸と外務省の公表資料を中心に、時系列で追ってみます。

8/18–19制裁の発表
「大変残念」
8/25「相容れない」
9/15「先ほどお答えした
ことが全て」
9/22–25首脳会談・声明
10/9–10機関への制裁
共同声明・電話会談
◆ 米国の制裁措置● 日本政府の発言・対応

図:8月18日を起点とした経過日数で配置(10月10日まで計53日)

8/19「大変残念」→ 8/25「日本の立場と相容れない」「大変深刻に受け止め」→ 10/9「深く懸念」→ 10/10 共同声明「遺憾に思い、強く反対」

図:日本政府の表現の推移(公式の強弱の序列を示すものではありません)

8月:「大変残念」から、日本の立場と相容れないという表現へ

高市首相は、制裁が発表された直後の8月19日、「大変残念に思っております」と述べました(同日の外務報道官談話も参照)。

8月25日の記者会見では、今回の措置は日本の立場と相容れるものではなく、大変深刻に受け止めていると述べ、表現を強めました。「弱腰」との批判は当たらないとして、赤根所長を「制裁対象にしないよう」、米国に累次にわたり様々なレベルで、ぎりぎりまで働きかけてきたことを明らかにしています。また、制裁対象となった場合に備え、送金などの金融取引についてアドバイスや手続の後押しをしてきたことも説明しました。

同じ会見で、記者は、米国への抗議のレベルを引き上げたり、制裁の撤回を求めたりすることはしないのかと質問しました。首相は、これまでも様々なレベルで働きかけを行ってきたと説明し、今後も必要なタイミングで必要な働きかけを行うと述べました。一方、具体的な対応を明らかにすると手の内を見せることになるとして、外交の細かいやり取りは述べませんでした。

同じ日の茂木外務大臣の会見記録でも、今回の措置は日本の立場と相容れるものではないと述べています。また、米国に何度も働きかけてきたこと、国際法局長がオランダに出向いて直接話を聞いたこと、必要な支援を続けることも明言しました。一方、記者から、米国に制裁の撤回を明確に求めることはしないのかと問われたのに対しては、外交上のやり取りなので詳細は控える、効果的な対応を検討する、と答えました。

9月15日:記者が「イエスかノーか」を尋ねる

記者は、米国の高官に制裁撤回を直接求めたのか、イエスかノーかで答えるよう求めました。茂木大臣は、赤根所長と直接電話で話したことや、米国への働きかけを継続していることを説明しました。一方、撤回を直接求めたかどうかについては、外交上のやり取りとして具体的な説明を避け、「それも含めて、先ほどお答えしたことが全て」と述べました。

9月22日〜25日:首脳会談と共同声明

9月22日(現地時間)の日米首脳会談について、首相は翌23日の会見で、ICCを一貫して支持する日本の立場を踏まえ、トランプ大統領と「率直にやり取りを行いました」と説明しました。具体的な内容には触れませんでした。

同じ22日、日本や英仏独など8か国の外相らが、国際司法機関を保護し強化する決意は揺るぎない、とする共同声明を発表しています(ICCを念頭に置いたものと報じられています)。

9月25日の官邸での会見では、先方からICCの話はなかったが、自分からあえて、日本は一貫してICCを支持していると伝えたと説明しています。記者が「撤回要求はしたのか」と尋ねたのに対しては、詳細は述べず、日本の考えはしっかり伝えた、と答えました。今後はルビオ国務長官と茂木外務大臣の間で意思疎通をしていくことになった、とも述べています。

10月9日〜10日:メッセージ、共同声明、電話会談

10月9日付の外務大臣メッセージは、米国によるICCそのものへの制裁を取り上げ、日本政府の立場を説明しています。今回の措置は日本の立場と相容れるものではなく、「深く懸念しています」としたうえで、ルビオ国務長官と意見交換したこと、今後も米国への働きかけを続けること、赤根所長や関係国との意思疎通を続けることを述べています。

10日には、日本はカナダ、デンマーク、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、英国と共同で、ICCに関する外相共同声明を発出しました。9月22日の声明とは別のものです。外務省が公表した仮訳には、「米国による裁判所への制裁の発表を遺憾に思い、強く反対します」とあります。

日本カナダデンマークドイツフランスイタリアオランダ英国

図:10月10日の外相共同声明に加わった8か国

10日夜には、茂木大臣が赤根所長、ルビオ国務長官とそれぞれ約15分間、電話で会談しました。外務省によると、赤根所長とはICCをめぐる現状などについて意見交換しました。ルビオ長官には、ICCについて日本政府の立場を伝え、緊密に意思疎通を続けていくことで一致しました。

赤根所長
21:00〜 約15分
ルビオ国務長官
21:45〜 約15分
21:0021:3022:00

図:10月10日夜の電話会談(開始時刻は外務省の発表による)

ここから何が言えるか

公表資料からは、政府が複数の対応をしてきたことが確認できます。外相共同声明の発出、赤根所長との電話会談、幹部の派遣、首脳や外相による対米のやり取りなどです。

ここで区別したいのは、「働きかけた」という行動の存在と、「何を求めたのか」という中身です。前者は政府の説明で確認できます。さらに、8月25日の首相会見では、赤根所長を「制裁対象にしないよう」米国に働きかけてきたことも明らかにされています。一方で、制裁が発動された後に、制裁の撤回を明示的に求めたのか、どのレベルで、どのような要求をしたのかといった外交交渉の核心部分は、公表資料からは確認できません。

公表資料で確認できること

  • 「働きかけた」という行動の存在
  • 「制裁対象にしないよう」働きかけてきたこと
  • 外相共同声明の発出
  • 赤根所長との電話会談
  • 幹部の派遣、首脳や外相による対米のやり取り

公表資料からは確認できないこと

  • 制裁発動後に、撤回を明示的に求めたか
  • どのレベルで求めたか
  • どのような要求をしたか

=外交交渉の核心部分

図:「働きかけた」の行動と中身の区別

つまり、問われているのは、「政府はごまかしているのか」という二択ではありません。「働きかけた」と政府が説明しているなら、その中身を、国民はどこまで確認できるのか。外交上の秘密は理解できるとして、説明できる範囲はどこまでなのか。ここが、残された問いです。

公式発言を読むための5つの質問

この記事で一番持ち帰っていただきたいのは、次の5つの質問です。「遺憾」だけでなく、「深く憂慮している」「極めて残念だ」「重大な関心を持っている」といった言葉にも、そのまま使えます。

  1. 何が問題なのか。出来事のどの部分を指しているのか。
  2. 誰の行為を問題にしているのか。相手なのか、自分たちなのか。
  3. 自分たちの責任をどう考えているのか。謝罪なのか、評価だけなのか。
  4. 相手に何を求めているのか。撤回なのか、説明なのか、何も求めないのか。
  5. 自分たちは何をするのか。具体的な行動や期限があるのか。

この5つが示されていれば、発言の立場や対応方針を読み取りやすくなります。示されていなければ、「その評価の先に何があるのか」をさらに確認する必要があります。ただし、外交上の理由で、すべてを公表できない場合もあります。その場合は、「なぜ公表できないのか」「どこまでなら説明できるのか」を問うことが、次の一歩になります。

つまり、形容詞の強さではなく、発言の構造で読む、ということです。政治家の発言だけでなく、企業の不祥事、行政の説明、大学やスポーツ組織の会見にも使えます。

「誰に」「何について」使われたかも見てみる

もうひとつの見方は、同じ言葉が、相手や話題によってどう使い分けられているか、という点です。

同じ外務省が公表した最近の例を、並べてみます。

ロシア・2022年10月

評価

「極めて遺憾」「決して受け入れられません」

要求

国外退去を求める

措置

大使の召致

沖縄の事件・2026年10月4日

評価

「極めて遺憾であり、強い憤りを覚える」

要求

捜査への全面的な協力、米軍関係者の綱紀粛正、再発防止の徹底

措置

駐日米国大使を外務省に呼び、強く抗議

ICC・2026年10月

評価

「深く懸念」「遺憾に思い、強く反対」(共同声明)

要求

公表資料では確認できない

措置

米国への働きかけの継続、赤根所長や関係国との意思疎通の継続

図:公表された表現と行動の種類(評価・要求・具体的措置)

沖縄の事件については、10月3日に那覇市で起きた強盗殺人事件で米海兵隊員が逮捕されたことを受け、茂木大臣はグラス駐日米国大使を外務省に呼びました。「極めて遺憾であり、強い憤りを覚える」として強く抗議し、捜査への全面的な協力、米軍関係者の綱紀粛正、再発防止の徹底を強く求めています。グラス大使は「深い遺憾の意」を表明し、捜査に全面協力すると述べたと、外務省は発表しています。

さらに、10月10日の日米外相電話会談は、同じ会談の中での書きぶりの違いが分かる例です。外務省の発表によると、ICCについては「日本政府の立場」を伝達したとされています。沖縄の事件については、「遺憾の意を含め日本政府の立場」を伝達し、再発防止のため「実効性のある措置」を取るべく協議したとされています。

これらは、案件の性質が違います。ですから、「どれに強く対応したか」を単純に比べることはできません。ここで見たいのは、公表された表現と行動の種類、つまり、評価、要求、具体的措置のうち、何がどこまで示されているか、という点です。

また、農林水産大臣の「道路予算カット」発言も問題になりました。大臣は発言を撤回して陳謝し、高市首相から「職責を全うするよう」指示されたと説明しました。ここでも、「どんな評価を示したか」だけでなく、「誰が何をしたか」を見ることができます。

どちらが良い、悪い、と先に決めつける必要はありません。並べて、比べてみること。それが、読み解くための第一歩です。

まとめ

「遺憾」は悪い言葉ではありません。本来は、残念な気持ちを丁寧に表す言葉です。問題は、その言葉だけで、説明したことになってしまう場合があることです。

私たち市民にできるのは、言葉の強さに安心するのでも、決めつけるのでもなく、その後ろに何があるかを確かめることです。

「遺憾です」と聞いたら、「で、何をするのですか」。
この一言を心の中で足してみてください。

参考情報

主な一次資料(政府・国会) ※ICC関連は時系列

主な一次資料(その他の事例)

語義・解説

報道(政府発表では分からない背景や、当時の報道状況の補足)

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