親を頼れない若者は、なぜ病院に行けないのか 制度はある。足りないのは「つないでくれる人」
病気やけがで病院に行く必要があるのに、お金がなくて行けない。支援団体につながる若者の中にも、そんな状況に置かれた人がいます。
認定NPO法人D×P(ディーピー)は、LINE相談を利用する13〜25歳の若者445人にアンケートを行いました(2026年8〜9月実施)。報道はNHKニュースでも伝えられています。調査の結果は、D×Pの公式発表と報告書(PDF)で確認できます。
この調査は、LINE相談の利用者のうち445人が答えたもので、回答率は4.0%です。D×P自身も、若者一般の傾向とは言い切れないとしています。それでも、困窮している若者の実態の一端を示す、重い数字です。
この問題は、単なる「若者の貧困」ではありません。「親を頼れない」ことが、医療費の支払いだけでなく、病院探し、制度の利用、行政への相談、住まいなど、本来なら家族が支えてきた生活上の支えを一度に失わせてしまうところに、核心があります。
なぜ、こんなことが起きるのか
① 日本の社会は、暗黙のうちに「家族を頼れる」前提でできている
20歳の人が病気になったとします。親を頼れる人なら、次のようなことを家族がしてくれます。
一時的に立て替える
手伝う
相談する
親を頼れない人は、これを全部一人でやらなければなりません。虐待やDV、親の病気や依存症、親自身の貧困、家族関係の断絶、親に病気を理解してもらえない。事情はさまざまです。
NPO法人サンカクシャが、2026年8月に、現在つながっている若者45人を対象に実施したアンケートの結果です。
共通しているのは、「困ったときに頼る人」がいないことです。
② 「親がいる」だけでは、支援の必要性が見えにくい
「貧困」には生活支援が、「病気」には医療制度が、「失業」には雇用支援が、「虐待」には児童福祉があります。ところが「親はいるけれど、頼れない」という状態は、外からは支援の必要性が見えにくく、制度につながりにくいことがあります。親が存在する以上、「家族が支えるだろう」と見られてしまうからです。
③ 制度はあっても、たどり着けない
実は、お金に困っている人のための制度はすでにあります。
問題は、若者が制度を知らないことだけではありません。制度を知っていても、「どこに相談すればいいのか」「自分は対象なのか」「相談したら何が起きるのか」が分からず、支援につながれないことがあります。経済的な困りごとを病院に伝えること自体にも、心理的なハードルがあります。
「制度がない」のではなく、
「制度にたどり着くまでが遠すぎる」のです。
では、どうすればいいのか
「社会が支える」「支援を強化する」だけでは、何も変わりません。大切なのは、誰が、何を、どうやるのかまで具体的にすることです。
4つをセットにする
次の4つを、バラバラではなく一体で整えることを提案します。最初に相談する場所を分かりやすくする(①)だけでは足りません。相談したあとも、複数の機関にまたがる問題を誰かが追い続ける(②)ことで、初めて支援が届きます。
③の緊急支援について
D×Pなどの民間団体は、すでに現金給付や食料支援を行い、医療や福祉につなぐ取り組みをしています。ここで私が提案するのは、そうした民間の取り組みに任せきりにせず、自治体が責任を持って用意する仕組みです。これは現行制度として全国で整っているものではなく、私の提案です。
緊急支援については、自治体が実施主体となり、対象となる費用、支給の判断基準、決定までの手順、財源をあらかじめ定めておきます。緊急時には、既存制度の申請や審査に時間がかかる場合でも、必要な支援が届くまでの空白を埋められるよう、自治体独自の一時的な支援を迅速に行える仕組みを整えます。その後、本人の状況に応じて既存の制度につなぎます。既存制度の手続きを省くのではなく、支援が届くまでの空白を埋めるのが、この提案の中心です。
すべてをゼロから作る必要はありません。既存の制度や相談体制を生かしながら、若者が必要な支援にたどり着き、実際に利用できる形に整えることが大切です。
「主語」を決める
| 誰が | 何をするのか |
|---|---|
| 国 | 制度・財源・最低限の基準を整える |
| 自治体 | 相談窓口を一本化し、地域で責任を持って実施する |
| 医療機関 | 支払いが難しい人を見つけ、支援につなぐ |
| NPOなど | 若者との最初の接点をつくる |
| 担当者 | 本人に寄り添い、支援が届くまで見届ける |
私は、最終的な責任主体は自治体とするのが現実的だと考えます。国は制度と財源を用意し、自治体が地域の責任者になり、病院やNPOと連携します。「誰かがやるだろう」を許さないために、一人の若者ごとに責任者を決めておきます。
ただし、自治体が責任主体になれば自動的に実現するわけではありません。次のことを、あらかじめ決めておく必要があります。
細かい設計は地域ごとに違ってよいでしょう。大切なのは、提案を掲げるだけで終わらせず、誰が、どんな仕組みで実行するのかまで決めることです。
成果は「相談件数」ではなく「受診できたか」で測る
相談窓口を何件つくったか、何件の相談があったかではなく、実際に受診できたか、住まいを確保できたか、生活が安定したかで評価します。
実施するときには、緊急性の高い相談で、相談から受診や支援の開始までにかかった時間や、1か月後・3か月後にも必要な支援が続いているかも、あわせて確かめるとよいでしょう。
例えば、こんな場面で
次は、ここまでに提案した支援体制がある場合の対応例です。現行制度の一般的な基準ではなく、私が提案する運用の目標です。
19歳の若者が「歯が痛い。でもお金がない。親には言えない」とLINEで相談したとします。
ここまでやって初めて、「相談窓口を教えた」ではなく「治療を受けられた」と言えます。
おわりに
「親を頼れない若者」がいること自体が問題なのではありません。親を頼れないことで生じるリスクを、その家庭と本人だけに背負わせ、必要な支援につながらないままにしてしまう社会の仕組みが問題です。
自立とは、誰にも頼らないことではなく、必要なときに、適切な人や制度を頼れる状態のことです。助けを求めた若者に、誰が最後まで責任を持つのか。この問いに答えを出さない限り、「制度はあるのに治療を受けられなかった」という人は、これからも生まれ続けます。
- NHKニュース「親頼れない若者 お金払えず治療できないケースも 支援団体調査」
- 認定NPO法人D×P「医療・衛生用品アクセス調査結果レポートを公開しました」(2026年10月13日)
- 認定NPO法人D×P「医療・衛生用品アクセス調査」報告書(PDF)
- NPO法人サンカクシャ「『親を頼れない若者』の今と変化―2026年度サンカクシャアンケート分析報告を公開しました」(2026年9月29日)
- 厚生労働省「無料低額診療事業等に係る実施状況の報告:調査の概要」
- 長野県「社会福祉法第2条第3項に規定する生計困難者のために無料又は低額な料金で診療を行う事業について」
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度と健康増進施策との連携について」(令和6年度保健師中央会議資料)
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度の概要・理念について」(令和5年度人材養成研修資料)

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