親を頼れない若者は、なぜ病院に行けないのか 制度はある。足りないのは「つないでくれる人」

病気やけがで病院に行く必要があるのに、お金がなくて行けない。支援団体につながる若者の中にも、そんな状況に置かれた人がいます。

認定NPO法人D×P(ディーピー)は、LINE相談を利用する13〜25歳の若者445人にアンケートを行いました(2026年8〜9月実施)。報道はNHKニュースでも伝えられています。調査の結果は、D×Pの公式発表と報告書(PDF)で確認できます。

D×Pの調査結果(割合ごとに「分母」が違います)
回答者445人(回答率4.0%) LINE相談の利用者が対象
病気やけがで「受診・治療が必要だった」人のうち、実際には受診・治療をしなかった人 (分母:356人)
52.5%
受診・治療をしなかった人のうち、その理由が「支払いが難しかった」人 (分母:187人・複数回答)
62.0%
身体の病気やけがで受診したいとき、保護者との関係で何らかの障壁を経験した人 (分母:回答者445人・複数回答)
45.8%

この調査は、LINE相談の利用者のうち445人が答えたもので、回答率は4.0%です。D×P自身も、若者一般の傾向とは言い切れないとしています。それでも、困窮している若者の実態の一端を示す、重い数字です。

この問題は、単なる「若者の貧困」ではありません。「親を頼れない」ことが、医療費の支払いだけでなく、病院探し、制度の利用、行政への相談、住まいなど、本来なら家族が支えてきた生活上の支えを一度に失わせてしまうところに、核心があります。

なぜ、こんなことが起きるのか

① 日本の社会は、暗黙のうちに「家族を頼れる」前提でできている

20歳の人が病気になったとします。親を頼れる人なら、次のようなことを家族がしてくれます。

医療費を
一時的に立て替える
医療保険の手続きを
手伝う
病院を探す
学校や仕事への連絡を
相談する

親を頼れない人は、これを全部一人でやらなければなりません。虐待やDV、親の病気や依存症、親自身の貧困、家族関係の断絶、親に病気を理解してもらえない。事情はさまざまです。

NPO法人サンカクシャが、2026年8月に、現在つながっている若者45人を対象に実施したアンケートの結果です。

サンカクシャのアンケート(対象:つながっている若者45人)
一人暮らしを始めた理由:「家族との関係が悪く、家にいられなかったため」 (理由を1つ以上挙げた39人のうち)
56.4%
家を出たときに困ったこと(45人中)
精神的に孤独で、相談できる人がいなかった
64.4%
生活費やお金のことで苦労した
62.2%
体調を崩したときに頼れる人がいなかった
53.3%

共通しているのは、「困ったときに頼る人」がいないことです。

② 「親がいる」だけでは、支援の必要性が見えにくい

「貧困」には生活支援が、「病気」には医療制度が、「失業」には雇用支援が、「虐待」には児童福祉があります。ところが「親はいるけれど、頼れない」という状態は、外からは支援の必要性が見えにくく、制度につながりにくいことがあります。親が存在する以上、「家族が支えるだろう」と見られてしまうからです。

③ 制度はあっても、たどり着けない

実は、お金に困っている人のための制度はすでにあります。

無料低額診療事業
経済的な理由で必要な医療を受けられないことがないよう、無料または低額で診療を行う事業です。社会福祉法に基づいています(厚生労働省、長野県の解説資料)。ただし、すべての医療機関が実施しているわけではありません。実施しているか、自分が対象になるかは、医療機関や自治体の窓口で確認する必要があります。
生活困窮者自立支援制度
生活や就労などの困りごとを幅広く相談できる「自立相談支援事業」があります。この相談自体には、収入や資産の具体的な要件はありません(厚生労働省資料、制度の概要・理念)。ただし、その先の個別の支援事業(住居確保給付金など)には、それぞれ利用条件があります。
生活保護
最後のセーフティネットです。

問題は、若者が制度を知らないことだけではありません。制度を知っていても、「どこに相談すればいいのか」「自分は対象なのか」「相談したら何が起きるのか」が分からず、支援につながれないことがあります。経済的な困りごとを病院に伝えること自体にも、心理的なハードルがあります。

「制度がない」のではなく、
「制度にたどり着くまでが遠すぎる」のです。

では、どうすればいいのか

「社会が支える」「支援を強化する」だけでは、何も変わりません。大切なのは、誰が、何を、どうやるのかまで具体的にすることです。

4つをセットにする

次の4つを、バラバラではなく一体で整えることを提案します。最初に相談する場所を分かりやすくする(①)だけでは足りません。相談したあとも、複数の機関にまたがる問題を誰かが追い続ける(②)ことで、初めて支援が届きます。

1
相談窓口を一本化する
若者が最初に相談する場所を、一つにします。医療、家賃、生活費、仕事で窓口を分けず、「親を頼れない」「親には言えない」という事情そのものを相談の入口にします。電話だけでなくLINEなど、若者が使いやすい方法も用意します。
2
担当者を一人決める
窓口で相談を受けた後も、その若者を担当する人を一人決めます。「この制度があるので、○○へ行ってください」で終わらせません。担当者が、本人の同意を得て各機関に電話をつなぎ、問題が解決するまで追いかけます。「紹介する人」ではなく「最後までつなぐ人」です。
3
緊急時の少額のお金を用意する
財布に3,000円しかない人に「まず相談予約を」では間に合いません。医療費、薬代、食費、交通費、緊急の宿泊費などに、数千円から数万円を素早く出せる仕組みが必要です。(詳しくは下の説明をご覧ください)
4
病院から支援につなぐ
病院が「支払えません」という人を単なる未払いとして処理せず、医療ソーシャルワーカーなどにつなぎます。無料低額診療などを確認し、必要なら住まい・食事・仕事の相談先まで案内します。

③の緊急支援について

D×Pなどの民間団体は、すでに現金給付や食料支援を行い、医療や福祉につなぐ取り組みをしています。ここで私が提案するのは、そうした民間の取り組みに任せきりにせず、自治体が責任を持って用意する仕組みです。これは現行制度として全国で整っているものではなく、私の提案です。

緊急支援については、自治体が実施主体となり、対象となる費用、支給の判断基準、決定までの手順、財源をあらかじめ定めておきます。緊急時には、既存制度の申請や審査に時間がかかる場合でも、必要な支援が届くまでの空白を埋められるよう、自治体独自の一時的な支援を迅速に行える仕組みを整えます。その後、本人の状況に応じて既存の制度につなぎます。既存制度の手続きを省くのではなく、支援が届くまでの空白を埋めるのが、この提案の中心です。

すべてをゼロから作る必要はありません。既存の制度や相談体制を生かしながら、若者が必要な支援にたどり着き、実際に利用できる形に整えることが大切です。

「主語」を決める

誰が 何をするのか
国制度・財源・最低限の基準を整える
自治体相談窓口を一本化し、地域で責任を持って実施する
医療機関支払いが難しい人を見つけ、支援につなぐ
NPOなど若者との最初の接点をつくる
担当者本人に寄り添い、支援が届くまで見届ける

私は、最終的な責任主体は自治体とするのが現実的だと考えます。国は制度と財源を用意し、自治体が地域の責任者になり、病院やNPOと連携します。「誰かがやるだろう」を許さないために、一人の若者ごとに責任者を決めておきます。

ただし、自治体が責任主体になれば自動的に実現するわけではありません。次のことを、あらかじめ決めておく必要があります。

担当部署:窓口と担当者を、自治体のどの部署が担うのか
連携の手順:医療機関やNPOと、どんな流れで引き継ぎ、連絡を取り合うのか
緊急支援の財源:少額の資金を、誰の予算で、どんな条件で出すのか
情報共有のルール:本人の同意のもと、どこまでの情報を、どの機関と共有するのか
対応時間:夜間・休日の連絡体制をどうするのか

細かい設計は地域ごとに違ってよいでしょう。大切なのは、提案を掲げるだけで終わらせず、誰が、どんな仕組みで実行するのかまで決めることです。

成果は「相談件数」ではなく「受診できたか」で測る

相談窓口を何件つくったか、何件の相談があったかではなく、実際に受診できたか、住まいを確保できたか、生活が安定したかで評価します。

実施するときには、緊急性の高い相談で、相談から受診や支援の開始までにかかった時間や、1か月後・3か月後にも必要な支援が続いているかも、あわせて確かめるとよいでしょう。

例えば、こんな場面で

次は、ここまでに提案した支援体制がある場合の対応例です。現行制度の一般的な基準ではなく、私が提案する運用の目標です。

19歳の若者が「歯が痛い。でもお金がない。親には言えない」とLINEで相談したとします。

1
相談を受けたら速やかに返信し、緊急性が高い場合は当日中に状況を確認する
2
本人の状況(症状や経済状況など)を確認する
3
受診できる医療機関を確保し、無料低額診療などが使えるか確認する
4
必要なら医療費を緊急支援する
5
受診する
6
家賃・食費・仕事の状況も確認し、必要な制度につなぐ
7
1か月後、3か月後にも連絡する

ここまでやって初めて、「相談窓口を教えた」ではなく「治療を受けられた」と言えます。

おわりに

「親を頼れない若者」がいること自体が問題なのではありません。親を頼れないことで生じるリスクを、その家庭と本人だけに背負わせ、必要な支援につながらないままにしてしまう社会の仕組みが問題です。

自立とは、誰にも頼らないことではなく、必要なときに、適切な人や制度を頼れる状態のことです。助けを求めた若者に、誰が最後まで責任を持つのか。この問いに答えを出さない限り、「制度はあるのに治療を受けられなかった」という人は、これからも生まれ続けます。

参考情報

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