「大学生は勉強していない」は本当か? 全国学生調査・約32万人の回答から読む
「最近の大学生は勉強しない」。そんなイメージを持つ人は少なくないかもしれません。
ところが、文部科学省が公表した令和7年度「全国学生調査」の結果を詳しく読むと、話はそれほど単純ではありません。確かに、授業の外で学ぶ時間は短い。一方で、専門知識や協働する力が身についたと答えた学生は9割近くに達し、大学で成長したと実感している学生も8割を超えています。
では、日本の大学教育はうまくいっているのでしょうか。答えは「良い」「悪い」の二択ではありません。今回の調査から見えてくるのは、次のような姿です。
しかも、その違いは学部の分野や規模によっても変わります。順に読み解いていきます。
まず、この調査は何か
「全国学生調査」は、大学の学部2年生と最終学年の学生(短大は最終学年)を対象に、授業の受け方、身についた力、1週間の生活時間などを尋ねる国の調査です。学生の目線から大学教育の実態を把握し、各大学の教育改善や国の政策づくりに活かすことを目的としています。
令和元年度から4回の試行を重ね、令和7年度から本格実施になりました。令和7年度以降は、原則として毎年度実施される予定です。
(2年生・最終学年)
(前回試行13.1%)
回答率は、前回の試行より大きく上がりました。ただし、対象学生のうち有効に回答したのは4分の1ほどで、回答しなかった学生のほうが多数派です。大学規模別に見ると、学生の回答率にも差があり、学生数2,000人以上の大学では20.9%、500〜1,000人の大学では39.9%でした。
大学規模別に見た、学生の回答率
出典:文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』の結果について」(大学、参加校に属する対象学生数に対する有効回答率)
したがって、この調査を「全国の大学生全員の意識をそのまま表した数字」と考えるのは適切ではありません。回答した学生から見えた、全国的な傾向として読む必要があります。
見えてきたこと① 「大学にいる時間」と「学んでいる時間」は別
大学2年生の数字を見ると、気になる対比があります。
大学2年生の1週間の過ごし方
週16時間以上
大学の授業には出ている。しかし、授業の外で自分から学ぶ時間は長くない。そんな姿が浮かびます。
大学設置基準は、1単位を「45時間の学修を必要とする内容」で構成することを標準としています。この45時間には、授業そのものだけでなく、予習・復習などの授業外学修も含まれます。ところが実際には、授業に出ていても、その前後の学修時間が十分に確保されていない学生がかなりいます。文部科学省は、期末試験の結果だけで単位が認定されることや、履修登録できる単位数の上限(キャップ制)が実質的に機能していないことなどが背景にあると見ています。
最終学年になると、様子は変わります。授業への出席は減り、授業に関する学習も週5時間以下が約75%になります。一方で、卒業論文・卒業研究・卒業制作に週16時間以上を費やす学生が約3割います。ただし、卒論などの時間が週5時間以下の学生も約4割います。最終学年でも、学び方には大きなばらつきがあります。
また、授業関連の学習時間は新型コロナの時期より減り、アルバイトや部活・サークルなどの時間は増えています。
ここから言えるのは、「学生が怠けている」という単純な話ではありません。むしろ問われているのは、次のことです。
見えてきたこと② それでも学生の「成長実感」は高い
学修時間が長くない一方で、学生自身の評価はかなり高いのです。
学生の評価(肯定的な回答の割合)
出典:文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』の結果について」(「そう思う」「ある程度そう思う」、「身についた」「ある程度身についた」の合計)
「大学生は勉強していない」からといって、「大学で何も身についていない」わけではありません。学生自身は、専門知識や協働する力をかなり身につけたと感じています。少なくとも、この調査結果から「大学教育は崩壊している」といった結論を導くことはできません。一定の成果ははっきり確認できます。
見えてきたこと③ 強いところと弱いところが、はっきり分かれている
では、何が問題なのでしょうか。身についたと感じる力、課題へのフィードバック、学生の声について並べてみます。
強いところ(青)と、弱さが見えるところ(橙)
これらを並べると、一つの構図が見えてきます。
もちろん、これらを一つの原因で説明することはできません。しかし、「教える力」に比べて、「学生自身が学びを回し続ける仕組み」に課題がある、という読み方はできそうです。
外国語とデータサイエンスには、大きな分野差がある
平均だけでは見えないのが、分野による違いです。
「身についた」「ある程度身についた」の合計(分野別)
出典:文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』結果【資料編】」(学部分野別、集計基準に合致した学部のみ)
「日本の大学生はデータサイエンスが苦手だ」と一括りにするのは正確ではありません。理学・工学では、専門教育の中にデータ分析が比較的自然に組み込まれています。一方、人文や芸術では、異なる教育体系が中心になっていると考えられます。
だから、これからの課題は、全員に同じデータサイエンス科目を受けさせることだけではないでしょう。歴史なら歴史、社会学なら社会学、芸術なら芸術。それぞれの専門分野の中で、データや統計をどう使うのか。外国語についても、語学そのものを学ぶだけでなく、専門分野の資料を外国語で読む、海外の学生と共同で課題に取り組む、といった形で専門教育と結びつけることが重要になります。
大学の外の世界との接点も、まだ少ない
今回の調査では、大学の外での経験についても尋ねています。5日間以上のインターンシップを「経験していない」学生は約77%、海外留学・海外研修を「経験していない」学生は約83%でした。
ただし、これは2年生と最終学年を合わせた数字です。学年別に見ると、インターンシップを経験していない割合は、2年生で約87%、最終学年では約66%です。
学年が上がるにつれて経験する学生は増えますが、最終学年でも約3人に2人は経験していません。すべての学生に長期インターンシップや海外留学が必要だとは言えません。それでも、「大学で学んだことを、大学の外で使ってみる機会が、まだ一部の学生に限られている」ということは、この調査から見えてきます。
見えてきたこと④ 「フィードバック」と「学生の声」
今回の結果で、特に重要だと思うのがここです。
提出した課題に適切なコメントがついて返却されたかを尋ねると、肯定的な回答は約59%でした。裏返せば、約4割の学生は十分なフィードバックを受けていません。前年の試行調査では否定的な回答が46%でした。改善はしていますが、それでも41%という数字は小さくありません。文部科学省は、自由記述の例として、「シラバスには個別のフィードバックを行うと書かれていたのに、提出物へのコメントがなかった」という趣旨の声を紹介しています。
学びは、本来こういう循環で進みます。
課題を出して、採点して、単位を与える。それだけでは、学生は「何が足りなかったのか」がわかりません。
これは学生アンケートにも通じます。「授業アンケートなどを通じて大学教育が良くなっている」と感じる学生は約57%で、約43%は改善を実感していません。アンケートを実施すること自体が目的になっていないか。意見を聞き、分析し、教育を変え、「こう変えました」と学生に返す。その循環があってこそ、学生の参加が教育改善につながったと言えるのではないでしょうか。
分野によって、学ぶ量はかなり違う
「大学生は勉強していない」という言葉そのものも、分野別に見ると疑わしくなります。授業に関する学習が週5時間以下の学生の割合は、次のとおりです。
授業に関する学習が週5時間以下の学生の割合(2年生と最終学年の合計)
出典:文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』結果【資料編】」(学部分野別、集計基準に合致した学部のみ)。割合が低いほど、授業外の学修時間が長い学生が多いことを示します。冒頭の「2年生で約60%」とは対象が異なります。
医学・薬学などでは、授業や実習、国家試験に向けた学修など、一定量の学修を前提とした教育課程が組まれていると考えられます。一方、人文・社会・教育などでは、授業の外でどこまで学ぶかが、学生に委ねられる部分が大きいのでしょう。
つまり、「大学生」という一つのカテゴリーだけで学修時間を語ることには無理があります。大学・学部によって、学生に求められる学修の量も、学び方も、かなり違うからです。
学部の規模が小さいほど、成長実感が高い
もう一つ、興味深い傾向があります。学部の規模別(2年生と最終学年の合計人数による区分)に見ると、小さい学部ほど成長実感が高くなっています。
学部規模別に見た、成長実感と学修時間
出典:文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』結果【資料編】」(学部規模別、集計基準に合致した学部のみ)
注目したいのは、下の段です。小規模学部の学生が、特別に長く勉強しているわけではありません。学修時間はほぼ同じです。それでも、成長実感には約4ポイントの差があります。成長実感は、学修時間だけでは説明できない可能性があります。
では、何が違うのでしょうか。授業の経験を並べてみます。
学部規模別に見た、授業の経験(肯定的な回答の割合)
出典:文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』結果【資料編】」の数字をもとに計算(「よくあった」「ある程度あった」、「そう思う」「ある程度そう思う」の合計)
小規模な学部ほど、対話やグループワークの機会が多く、課題へのコメントが返ってきやすく、学生の意見が教育改善につながっていると感じやすい。そうした傾向がそろっています。
ここからは「仮説」です
この調査だけで因果関係を証明することはできません。しかし、一つの可能性として考えられるのが、「教育の応答性」です。
学部が小さければ、学生と教員の距離が近く、質問しやすい。課題についてコメントを受けやすい。授業で意見を言いやすい。そうしたやり取りの積み重ねによって、「自分の学びが前に進んでいる」という実感を持ちやすくなる。そんな筋道は考えられます。
ただし、ここで関係していそうなのは「規模の小ささ」そのものではなく、「応答性の高い教育環境」のほうです。規模が小さくても応答性が低い学部はあり得ますし、規模が大きくても、少人数の演習やきめ細かなフィードバックの仕組みで応答性を高めている学部もあるはずです。また、小規模な学部ほど回答率が高いこと(学部規模別の回答率は、800人以上で17%、400人未満で36%)、分野の違い、教員数、学生の特性など、別の要因も考えられます。
それでも、「学修時間だけでなく、対話・フィードバック・参加といった教育の中身が、成長実感と関係しているのではないか」という問いは、今後さらに検証する価値があります。
なお、短大では、フィードバックやグループワーク、成長実感などの肯定率が大学より高く、学生の声が教育改善につながっているという実感も、大学より15ポイント高くなっています。小規模な教育環境の強みを考えるうえで、興味深い材料です。
この調査は、大学の評価をどう変えるのか
大学を選ぶとき、これまでは偏差値、知名度、就職実績などが目立ってきました。これからは、「その大学・学部で、学生は実際にどのような教育を受け、何が身についたと感じているのか」も、判断材料になっていくでしょう。
今回の本格実施では、肯定的な回答の割合が高い大学を並べる「ポジティブリスト」は公表されませんでした。代わりに、学部・学科ごとの回答を度数分布の形で、年内を目途に別途公表する予定です。
医学部と文学部では、教育の目的も学修の仕組みも違います。大学の規模も、学生の構成も、回答率も違います。それらを無視して「1位、2位、3位」と並べても、大学教育の本当の姿は見えにくいからです。
これは筆者の考えですが、順位を競うよりも、同じ大学・同じ学部が、学生の学びをどう改善してきたのか、その変化を見るほうが、この調査の本来の使い方に近いのではないでしょうか。文部科学省は、大学の「新たな評価」での活用を見込んでいます。だからこそ、単純なランキングではなく、「どこに課題があるのか」「改善したのか」「どのような教育方法が成果につながったのか」を見ることが重要になります。
調査結果を読むときの注意点
もちろん、この調査にも限界があります。
- 学生の自己評価です。「専門知識が身についた」と感じることと、実際の知識や能力が高いことは同じではありません。
- 回答した学生だけの結果です。学生の回答率は25.3%でした。回答しなかった学生の意識まで、この数字が完全に代表しているとは限りません。
- 分野・規模による違いには注意が必要です。分野別・規模別の数字は、一定の集計基準を満たした学部のみが対象です。特に小規模な学部では、基準を満たせず、集計に反映されていないケースもあります。
- 関連があっても、原因とは限りません。学部規模と成長実感に関連があっても、「小規模だから成長する」という因果関係が証明されたわけではありません。
この調査は、因果関係を証明する実験ではありません。日本の大学生が大学教育をどう経験しているのかを、全国規模で捉えるための「診断材料」と考えるのが適切です。
まとめ
「大学生は勉強していない」。この問いだけでは、今回の全国学生調査の意味は見えてきません。
大学生は授業には出ている。しかし、授業外の学修時間は短い。ただし、分野によって大きく違う。それでも、専門知識や協働する力、成長実感は高い。一方で、外国語やデータサイエンスには課題があり、特にデータサイエンスは分野による差が大きい。そして、課題へのフィードバックや、学生の声を教育改善につなげる仕組みにも課題が残っています。
さらに興味深いのは、小規模な学部ほど成長実感が高いことです。しかも、小規模学部の学生が特別に長時間勉強しているわけではありません。ここから浮かび上がるのは、次の問いです。
授業という「点」では、日本の大学教育には一定の成果があります。しかし、学生が自分で学び、課題に取り組み、フィードバックを受け、もう一度学ぶ。その学びを続ける「線」になると、まだ弱さが残っています。だから、これから問うべきなのは、「大学生は勉強しているのか」だけではありません。
高校生や保護者が大学を選ぶときも、大学名や偏差値だけでなく、ぜひこうした点を見てほしいと思います。どんな授業が行われているのか。授業の外でどれくらい学ぶのか。課題にコメントは返ってくるのか。学生の意見は教育改善に反映されているのか。そして、その学部の学生自身が、「自分は成長した」と感じているのか。
今回の全国学生調査は、日本の大学教育を「良い」「悪い」の二択で評価するための調査ではありません。「どこが強く、どこが弱いのか。そして、なぜその違いが生まれるのか」を考えるための、出発点です。大学教育を本当に良くするために必要なのは、「もっと勉強させろ」という単純な話ではないのかもしれません。学生が学び、考え、試し、失敗し、フィードバックを受け、また学ぶ。その循環を大学の中につくれるかどうか。今回の調査が問いかけているのは、そこなのだと思います。
参考情報
- 文部科学省「全国学生調査」(令和7年度結果の掲載ページ。以下の資料もここからたどれます)
- 文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』の結果について」(PDF)
- 文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』結果【資料編】」(PDF)
- 文部科学省「令和7年度『全国学生調査(本格実施)』結果(大学)【資料編】」(Excel)

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