国立大学の授業料を毎年見直す? 教育の機会均等を考える

国立大学の授業料を、物価や賃金の動きに合わせて毎年度見直す仕組みをつくってはどうか――。2026年10月、財務省がこの案を示しました。

「物価が上がっているのだから、大学の授業料も上がるのは仕方ない」と感じる人もいるかもしれません。一方で、授業料が上がり続ければ、家庭の収入によって進学の選択肢が狭まるのではないかという心配もあります。国立大学は、誰にどんな役割を果たすべきなのでしょうか。

いま何が提案されているのか

国立大学の学部などの授業料は、現在、標準額が年53万5,800円です。この額は2005年度から据え置かれています。各大学は標準額を基準に授業料を決め、標準額の120%まで設定できます。

図解① 授業料の「いま」をひと目で

標準額(年額)
53.58万円
据え置き期間
2005年度から
設定できる上限
標準額の120%
2005年度標準額
53万5,800円
2026年度標準額
53万5,800円
約20年間、標準額は変わっていません
標準額
535,800円
上限(120%)
642,960円

※上限額は、標準額53万5,800円×1.2で計算した金額です。

財務省の提案は、この標準額を物価や賃金の動きに応じて毎年度見直す仕組みです。大学の教育や研究にかかる費用、人件費が上がっていることへの対応が理由として挙げられています。これは現時点で決定した制度ではなく、財政制度等審議会で示された提案です。

図解② 標準額より高い授業料を設定している国立大学は?(2026年度)

11校
標準額のまま 74校
標準額を上回る授業料を設定:85大学中11大学(約13%)
標準額どおり:残りの74大学

出典:財務省 財政制度分科会(2026年10月22日)資料2、ReseEd の記事。

心配なのは「毎年上がるのが当たり前」になること

授業料が長く据え置かれてきた一方、大学の運営費が上がっているという問題はあります。ただ、その負担を学生や家庭に移すことが最善とは限りません。

とくに気になるのは、毎年の物価・賃金に連動させる仕組みです。いったん自動的な見直しが始まると、値上げが一度きりの例外ではなく、毎年の「調整」として定着する可能性があります。授業料の上昇が続けば、家計に余裕のない家庭ほど、進学先を変えたり、進学そのものを諦めたりするおそれがあります。

図解③ もし毎年「少しずつ」上がり続けたら?(計算例)

仮に、標準額が毎年2%ずつ上がると想定した場合の年額です。

現在
535,800円
1年後
約54.7万円(+約1.1万円)
3年後
約56.9万円(+約3.3万円)
5年後
約59.2万円(+約5.6万円)
10年後
約65.3万円(+約11.7万円)

※年2%という数字は、変化のイメージをつかむための仮定です。財務省が示した見通しや試算ではありません。実際の改定幅は、物価や賃金の動きによって変わります。

国立大学の授業料は、家計への請求額であると同時に、社会が高等教育をどう支えるかを示すものでもあります。学ぶ力や意欲があっても、家庭の経済状況によって進学が難しくなるなら、教育の機会均等が損なわれます。

支援制度があれば十分、とは言えない

国には、授業料の減免や給付型奨学金など、学生を支える制度があります。こうした制度は大切です。しかし、支援の対象に入らない世帯にも負担の重い家庭はあります。支援を受けても、生活費や通学費を含めた進学費用をまかなえるとは限りません。

「支援制度があるから値上げしても大丈夫」と決めつけず、どの世帯が対象になり、実際にいくら負担が残るのかを確かめる必要があります。授業料の変更が進学率や進路選択に与える影響も、丁寧に調べて公開すべきです。

大学を支える費用は、社会全体で考えたい

大学の教育・研究を維持するには、安定した財源が必要です。そこでまず問いたいのは、国から大学に渡す運営費交付金など、公的な支出をどう確保するかです。学生負担を増やす前に、国がどこまで支えるのかを議論する必要があります。

図解⑤ 国立大学法人への公的支出(2004年度と2025年度)

2004年度
合計1兆3,922億円
運営費交付金 1兆2,422億円
2025年度
合計1兆5,471億円
運営費交付金 1兆1,204億円
補助金等 4,267億円
運営費交付金(2004年度→2025年度:1兆2,422億円→1兆1,204億円)
補助金等(2004年度→2025年度:1,500億円→4,267億円)

※2004年度は国立大学が法人化された年度です。2004年度の補助金等は1,500億円(グラフ右端の細い部分)です。財務省の資料では、公的支出の合計は法人化以降で最大規模とされています。一方、運営費交付金そのものは2004年度より減っており、その差を補助金等が埋める形になっています。
出典:財務省 財政制度分科会(2026年10月22日)資料2

国立大学は、地域の人材育成や基礎研究など、個々の学生だけでなく社会全体に価値をもたらしています。大学を支える費用を学生の授業料だけに頼れば、その恩恵を受ける社会全体の責任が見えにくくなります。

教育の機会均等を、授業料の議論の中心に

物価や人件費の上昇に大学が対応できるようにすることは必要です。しかし、授業料を毎年見直すことを自動的な前提にするのではなく、進学機会への影響を最優先に考えるべきです。

図解④ 値上げを検討するなら、国と大学が具体的に説明すべき4点

  • 値上げが必要な理由
  • 公的支出で対応できない理由
  • 家計への影響
  • 支援制度からこぼれる人への対策

国立大学には、家庭の経済状況によって学ぶ機会が閉ざされないようにする役割があります。その役割を守るため、授業料のあり方を「大学の収入」の問題だけでなく、「誰もが学べる社会をどうつくるか」という視点から考えていきたいと思います。

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